特別編2・後編 「雌犬と雌犬の息子」と選挙の終わり
           ――2016年アメリカ大統領選の総括


アメリカ大統領選は大方の予想を裏切って――筆者の予想をも裏切って――ドナルド・トランプの勝利に終わった。筆者はこの稿をヒラリー・クリントンが今回受けたショックの大きさを測れる挿話から始めたい。

この3月半ば、彼女は落選後初めて公の場でスピーチをし、自分が「林から抜け出しつつある(アウト・オヴ・ザ・ウッヅ)」と発言した。「危機を脱して」という意味の熟語である。

他方、筆者は、今日の覇権国家アメリカで史上初の女性大統領が誕生するには、トランプのような型破りの候補を相手に回してこそ可能と考えていた。

世界中が「何で?!」と仰天する結果となって、筆者は春秋社の小林公二さんに了解をとって、「何で?!」の検索にとりかかった。それに5か月弱を要したが、その間、ヒラリー・クリントンは人格破綻に追い込まれることなく持ちこたえ、筆者の「検索」が終わりかけたのとほぼ同時期、「アウト・オヴ・ザ・ウッヅ」しかけているという。大した耐久力というしかない。

とはいえ、5か月弱の逼塞は、彼女が受けた衝撃の深刻さを物語ってもいる。

もっとも、筆者は『ヒラリー・クリントン――運命の大統領』(朝日新書)という本を出していたから、それなりの衝撃はあったし、担当してくれた編集者を社内で窮地へと追いやる結果となった。この人とは長い付き合いで、「運命の大統領」と振ったのは彼だったから、余計辛い思いをさせる結果となった。

この「何で?!」の種明かしの詳細は近刊の拙著をご覧いただきたいが、2016年の大統領選直前までの「アメリカ的人間」としてのトランプ像をご覧頂ければ、それなりに見えてくるものもあろうかと思われる。

それにしても、こうなった以上、2020年の大統領選には、民主党は意地でも三度、女性候補を立てるべきだと、筆者は考える――たとえ、ヒラリー・クリントンがその「三度目の女性候補」となろうとも。それまでにトランプがボロを出し、彼がホワイトハウスを去ることになっていようといまいと。

さて、筆者はこの「アメリカ的人間」の連載のために、トランプ当選前に「雌犬と雌犬の息子」と題する選挙戦終盤の報告を書いていた。先に述べたように筆者の予想は外れた。しかし今(2017年3月22日)再読しても、ヒラリー・クリントンが一般投票ではトランプに300万票近い差で勝ちながら選挙人数で負けたからくりの異様な「落差」こそ、2016年の大統領選の異様さという本質は変わらない。だから、拙稿をベースに、選挙後の情報を付け加えるかたちで、この選挙戦の終盤の模様をこれから書き綴っていこうと思う。

アメリカの大統領選挙自体は、未だに「スティル・コート・イン・ザ・ウッヅ(未だに迷妄に捉えられている)」にある。ヒラリー・クリントンは長らく「選挙人制度」に異議を唱えてきたが、大統領選挙の改革自体遅きに失したのである。

●収入別から見た2候補の支持層●

今回の大統領選における収入別による調法な判別法の記事が出たので、本稿の最初にこれを披露しておきたい(『ニューヨーク・タイムズ』10月27日付、トマス・B・イーザル「大いなる民主的倒錯」)。

まず拙稿では、トランプの中核支持層「高卒白人男性」に焦点を当てるあまり、ヒラリー・クリントン支持の黒人&ヒスパニック高卒層の背景への言及が不足していた。要は、彼らもまた生活苦は免れていないが、公民権法の成果で、あるいは中南米からアメリカに来た結果、経済格差ゆえに親の世代よりは暮らしが楽になってきているのに対して、高卒白人男性は親の代より落ち目になってきているという、比較の問題である。

2016年8月のピュー調査では、50年前の暮らしより楽か辛いかの調査がなされていて、ヒラリー・クリントン支持層は、よくなってきたが59%、悪化したが19%。6月のピュー調査では、クリントン支持層の81%が好転と回答、彼らの子供の世代ではさらに好転72%。他方、トランプ支持層の白人は、悪化81%、好転11%、共和党支持層は悪化72%、好転17%と、有色人種と白人で正反対のヴェクトルを示した。

2015年になされた別の調査(アラン・ベルービ&ナタリー・ホームズ)では、高卒(若干の大学単位取得)白人の年収3万38ドル、学部卒白人3万6047ドル、院卒6万8086ドル。

8月のピュー調査では、院卒者のクリントン支持vsトランプ支持の比率は、59対21、学部卒者では47対34。学歴が上がるほど、前者に有利な方向へと移動する。

それを如実に示すのが、「ヴァージニア大高等文化研究所(UVA-IASC)」の調査で、「社会的エリート」は高等学歴者では、49%が民主党支持、16. 8%が共和党支持で、昔の裕福な共和党支持層、平均的な民主党支持層という概念が逆転している点に注目。

UVA調査の「特権を剥奪された層」は、「キリスト教右翼(CR)」と呼ばれてきた、中絶反対で有名な白人が中心で、共/民両党比率は、53. 3%対11. 1%、前者の60. 9%が共和党支持、うちのトランプ支持は74. 3%(不支持は13. 5%)。

さて、これら「特権剥奪層」の50%が、年収5万ドル以下で暮らしている(エリート層でこの金額以下で暮らしているのは10%)。「剥奪層」の58%が、この事態を「まあ、こんなもんだ」か「金が足りない」、21%が「ひどい」と言っている。

他方、エリート層の58%が、年収10万ドルかそれ以上を得ている。「剥奪層」にも13%は、10万ドルかそれ以上がおり、年収への目減り感は相対的なものである。

恵まれない階層への態度では、「エリート層」では「悪い生活習慣のせいだ」とする者は81%(19%は否定)、「剥奪層」(つまり、トランプ支持層と重なる)では47. 2%同意、52. 8%が不同意であった。

それを如実に示しているのが一連のピュー調査で、トランプ支持の72%が1950年代(公民権運動開始)以降、アメリカ社会は悪化と答え、クリントン支持の70%がよくなったと回答。この質問では、白人学卒者の56%が1950年代以降よくなった、白人労働者階級の65%が悪化したと回答(後者はトランプ支持層と重なる)、前記の「キリスト教右翼」だと74%に跳ね上がる。

以上で、恵まれない階層の民主党、エリート層の共和党というかつての図式が完全に覆った(覆った背景は何度か触れたニクスンの「南部戦略」)。ところが、トランプを支持する層は、自らが担ぐトランプともどもそんな共和党に造反しつつある(最初は「茶会派」の造反だった)。

●「ビッチ」と「サナヴァビッチ」●

本稿、「アメリカ的人間」トランプ特別篇2の後編の風変わりなタイトルは、前回予告した通り、「雌犬(ビッチ)」はヒラリー・クリントン、「雌犬の息子(サナヴァビッチ)」はドナルド・トランプを指す。

この罵言「ビッチ」は、今日ではビッチが女権運動家万般を含意するまで格上げされた。

ビッチは元来、男性の言いなりにならない強気の女性に対して使われてきた罵言である。従って、女権運動家に対しては男性側から見れば、最適の罵言であり、罵言に籠められた女性の強さへの恐れが、女権運動家の根性を含意していると意識されたのである。他方、サナヴァビッチは、昔から「あん畜生」の意味で、トランプのいかがわしい無礼さが含意されている。類語の「サナヴァガン(son of a gun)」はいかにも荒くれた無法の西部を連想させるが、「悪党」を意味し、呼びかけでは「大将」、間投詞では驚きや舌打ちを表す。

もっとも、ビッチが女権運動で「公認」されたわけではない。例えば、この9月、国家安全保障のテレビ放映会議に出たヒラリー・クリントンを「共和党全国委員会(RNC)」のトップ、レインズ・プリーバス(トランプ政権の首席補佐官に抜擢されている)はこう批判するトゥイートを流した。「彼女は終始怒っていて防御的で、ニコリともせず、見ていて不快だった」。彼女はすかさずこうリトゥイートした。「私が大統領に当選したときの顔こそあれなのよね」。

この挿話をリサ・F・バレット(ノース・イースタン大心理学教授)は、以下のように分析する。「こういう深刻な問題の討議に際しては、男性はいつも右のような『顔つき』になるが、女性が同じ顔つきになると『見ていて不快』となるのだ」と。教授の研究班は、さまざまな状況下での男女の表情を写して分析、「女性はいかなる場合も内面の感情を顔に表すことを期待されるが、男性は状況次第で感情を隠す」という結論に達する。つまり、「感情」自体については、男女に差はなく、顔に出す上で男性のほうが制限があり、クリントンは前述のテレビ放映された会議では深刻な主題ゆえに列席の男性たち同様、表情に「制限」を加えただけだったのを、「見ていて不快」とくさされたのである。

●上手の手から漏れた、ヒラリーの「高卒白人男性」批判●

世間の常識通りに発言し実行することを英語では「オン・メッセジ」、そうしないことを「オフ・メッセジ」と言うが、後者は逸脱が売りだから文字通りだと「イクストラヴァガンザ(逸脱)」というイタリー語が使われる。「狂想曲、狂態」の意味もあるし、ミュージカルのジャンルでもある。ついには、トランプを1970年代の英国を席巻したパンクロック・グループ、「セックス・ピストルズ」に擬す例まで出てきた(ジェイムズ・パーカー「ドナルド・トランプ、セックス・ピストル」『アトランティック・マンスリー』2016年10月号)。

このグループ(「セックス・ピストルズ)のヴォーカル、ジョニー・ロトゥン(本名ジョニー・ライドン)の芸名、そして人気曲「ゴッド・セイヴ・ザ・クイーン」からも分かるように、公認されたものを破壊することから「核エネルギー」を引き出す点では、パンク・ロックとトランプは似ている。ちなみに、ロトゥンは「腐った」を意味する。

もっと分かりやすい例だと、トランプはプロレスのヒールである。

従来の大統領選に比べて、登場人物自身(トランプ)が選挙をショウ・ビジネスに一変させてしまい、メディア側もそれに乗ってしまった事態を、フランク・ブルーニはこう書く。「われわれは、自分らを逆説的かつ偽善的な立場へ追いやってしまった。トランプの道化ぶりを追い求めているくせに、それを例によって慨嘆してみせる。俗悪さを追い求めながら、それをけなす。……(中略)……とにかく、おれたちを退屈させないでくれ」。ブルーニは、こうも言うのだ。

そういえば、「面白がる」例の極めつきとして、第1回のディベイトで惨敗したトランプが、以後の2回のディベイトを棒に振るという予測、正反対の場合、ヒラリー・クリントンのほうが、「こんなの大統領選じゃないわ!」と啖呵を切って下りるという予測があった。とはいえ、もちろんそうはならなかった。大体、史上初の女性アメリカ大統領たるべく、これだけ全身全霊を打ち込んできたクリントンがそんな短慮を起こすはずがない(第2&3回ディベイトの始末は後述する)。

彼女が気をつけないといけないのは、トランプをあからさまに嘲弄することだった。その意味で、彼の支持層(高卒白人男性)を「嘆かわしい手合い」呼ばわりしたのは実に拙劣というほかないが(後述)、7000万~1億に達すると見られていた(結果は8400万人)ディベイトの予測視聴者の眼前で、ヒラリー・クリントンは、冷静に振る舞い、トランプ自身に勝手に「道化」を演じさせないといけなかった(それは見事に成功した)。

厳しい教訓は、2000年の大統領選ディベイトで起きた出来事にこそあるのだ。ビル・クリントンの副大統領だったアル・ゴアは、相手のブッシュ息子の演説の間、ため息、冷笑その他、幾つもの余計な演技を連発、討論を棒に振った。ブッシュは、当時、今日のトランプ以上に「オバカな候補」と見られていたのだ。

真剣に候補者の演説に聞き入っていた者は、ゴアの愚かしい行為に気づかなかったが、大半の視聴者がブッシュの演説より、ゴアの反応に気をとられ、彼に不快感を抱いたのである。怖いのは、ブッシュを軽蔑していた視聴者ですら、ゴアの非礼を咎めたことである。

確かにトランプのような相手に対して真っ当な大統領選を展開する苦労は察するにあまりあるが、ヒラリー・クリントンが下手を打ったのは、肺炎を隠したことよりも、前述のように、トランプ支持層を「嘆かわしい手合い」とくさしたことだった(9月9日、マンハッタンの資金集め集会)。場所柄ウォール・ストリート関連の聴衆も多く、彼らは喝采を送ったが、トランプをくさすのはOKでも、彼の支持層をくさすのは戦術的敗北に当たる。なぜか?

典型的な反撃は、「高卒白人男性」の中核であるヒルビリーズ、つまりアパラチア山脈の貧困白人層を主題にしてきたライター、J・D・ヴァンスから来た。「道徳的にどうかと思われる見解を持つ者にも、善人はいる」。筆者がこれまで上げてきたトランプ支持層の蒙昧さには、見栄や外聞を気にしない者特有の愛すべき側面が多々ある。ヴァンスは鋭く、オバマの白人の祖母に対するオバマの微妙な愛情を持ち出すのだ。祖母が孫に注いだ愛情と憐憫の深さと彼女が黒人一般を恐れている矛盾に、オバマ少年が文字通りよろめく場面は、自伝の白眉だが(拙著『オバマ「黒人大統領」を救世主と仰いだアメリカ』第1章/明石書店を参照されたい)、ヴァンスはこれを引いて、ヒラリーの想像力の空白を非難するのである。

そしてヴァンスは、「われわれの90%が何らかの偏見を抱いている。ヒラリー支持層の25%すら、黒人は怠惰だと思い込んでいる。しかし、オバマの白人の祖母のように、偏見は愛情と共存しうるのだ」。オバマの祖母を持ち出したヴァンスのは、絶妙の刺し手だった。

ところが、ヴァンス発言に対する批判が一般人側から出された。要約すると、「誰も生まれながらにクリスチャンではないように、生まれながらの人種差別主義者ではない。いずれの場合も、後天的に学んだものだ。学べるものは、捨て去ることができる」。それを無視して、トランプに付和雷同することは、まさに「嘆かわしい」。後天的に身につけた悪しき概念を排除できることこそ、後天的に身につけられる「慎しみ深さ(ディースンシー)」だと言うのである。

彼女の「嘆かわしい手合い」発言に対するトランプ自身の刺し手は相変わらずで、「ワーオ、ヒラリー・クリントンが、おれの支持層、何百万もいる刻苦奮励の労働者諸君を猛烈に侮辱したんだぜ、これで彼女の世評はがた落ちさ」と、「お気楽トウィート」を飛ばした。ヒラリーは早くも翌日、謝罪を公表した。皮肉にも、8月のABCニュース/ワシントン・ポスト調査では、「高卒白人男性」の窮地への理解度ではトランプ35%、ヒラリー55%だったのだが(逆に、ヒラリーの「嘆かわしい手合い」発言は、それだけ問題となる。とはいえ、この調査結果は、高卒白人男性らがトランプに騙されているとの認識は、彼ら以外のアメリカ人の間にも広がっていることが分かる)。にもかかわらず、飛び出した彼女のミスステップは、以下の事情による。

9月半ば、ヒラリー・クリントンは、こう言った。「私がどうして50%差で先頭を切っていないのか? って聞きたいでしょ?」。

トランプはどう見ても合衆国大統領の器に見えなかったから、これは彼女ばかりか、他のアメリカ人はもとより、世界中に響きわたる疑問だろう。彼女の貫祿は、昨日今日のものではなく、例えば、2008年の大統領選でラスベガスでの討論を終えて本拠のシカゴに戻ったオバマは不機嫌にこう漏らした。「あそこではヒラリーはいかにも大統領らしかった。ところが、このぼくはそうは見えなかったんだ」。漏らした相手が、彼の名参謀、デイヴィッド・アクセルロッドだったから、確かな話である。

●第1回ディベイトでむき出されたトランプの「模範」●

それはともかく、9月26日の第1回ディベイトは、ヒラリー・クリントン自身が投げかけた前述の疑問を見事に証明する結果となった。トランプは、ルール無視の「がき大将」的攻撃に逸り立ったが(興奮度が過ぎて、頻繁に水を飲んだ)、ヒラリーは終始一貫プレジデンシャル、つまり横綱相撲を展開してみせたのである。

ちぐはぐな印象を与えたのは、ヒラリーは真っ赤な上下(パンツスーツ)、トランプは青のネクタイだったことだ。ご承知のように、「赤い州」は共和党支持、「青い州」は民主党支持である。他方、赤は女性の「戦闘服」でもあるので、トランプが彼女に譲ったのか? とはいえ、彼が彼女を遮った頻度から見て、「譲った」とは到底思えない。

ヒラリーを遮ったトランプの回数たるや、最初の26分で25回を越えた(ヴォックスの勘定では総数52回、対するヒラリー・クリントンは17回)。これを強く意識したのが女性視聴者だったことは、日常面でも会社の会議の席で理不尽に発言を遮られるのが女性である場合が多いことから理解できる。ある女性が、トランプの非礼をトゥイートすると、7000通もの共感の返信が返ってきたと言う。

いや、これはジェンダーを越えた問題ではないのか? 例えば、筆者は教授会でも発言しないので悪名高かったが、パーティで知人が誰かと話していると割り込む勇気がなく、2人の脇に立って、会話が終わるのを待つのである。おかげで、パーティは未だに大変苦手だ。

とはいえ、米の高校生の調査では、男子生徒は問題の正解が分からなくても手を上げるが、女子生徒は正解が分かっていても手を上げない者が多いという。

以上は、古くからの女性観が女性自体を邪魔している証拠の1つだが、それを言うなら、ディベイトの間中、相手の「遮り&割り込み」の一斉射撃中もヒラリー・クリントンが浮かべていた「辛抱強い笑顔」自体、がき大将的な男性側の「誹謗中傷」を受け流してきた歴代の女性たちの辛抱ぶりを連想させた。

ちなみに、筆者の教授会での沈黙、パーティで「廊下鳶」をやれない気後れは、そういう行為が「はしたない」と思い込まされているせいで、これは攻撃的な文化を持つアメリカですら女性に対する戒めである度合いが高い。

日本では「はしたなさ」という戒めが、男性よりも女性に対して向けられてきた。その事実を思い出させてくれたのが、筆者より10歳年上の同僚が語ってくれた以下の挿話に対する彼の感想だった。すなわち、彼がアメリカで行列に並んでいたとき、カウンターで大喧嘩を始めた白人女性のすぐ背後に並んでいた白人男性が抗議するや、件の白人女性が振り向きざま、背後で抗議した白人男性にすさまじい剣幕で食ってかかった。同僚は、それに心底辟易したと言うのである。

他方、男性であるトランプは、女性であるヒラリー・クリントンを平然と遮ってまくしたてる。自らに課した重労働で、彼は喉が渇き、ひっきりなしに水を飲んだ。これは、1960年、大統領選初めてのテレビ討論で、流れ出る汗にドーランが溶けて異様なご面相になるのを、しきりにハンケチで拭って負けたニクスンを思い出させた。(テレビがまだ少なかったこの時期、ラジオで論戦を聞いた者は、勝ったのはニクスンだと思い込んだ。残された演説草稿だけを読んでも、筆者はニクスンに軍配を上げる)。

このトランプの「遮り&割り込み」に言及したのは、『ニューヨーク・タイムズ』のスタイル欄担当の女性記者ジェシカ・ベネットだが、彼女はヒラリー・クリントンの信頼度の低さにも女性差別の表れを見る(この主題は後述するが、肝心の女性有権者にこそ彼女への偏見が多いのだから、女性が同性を差別するという複雑怪奇な現象となるのだ)。

とはいえ、なぜ男性がこうまで幼稚な力み方を露呈するのか? 個々の人生でこの幼稚な攻撃性が男性に刷り込まれるのは、アメリカでは「7年生」、つまり日本では中学生段階である。筆者は、息子らを通して中学時代こそ、彼らには「人生の早瀬」であることを教えられた(自分の中学時代の問題点は忘れていた)。

事実、この時期の彼らの人生は文字通り「早瀬」なのだ。例えば、筆者の長男は相模川に静められたテトラポッット群の水面に突き出た頭部を飛び渡ることにこだわり(それができないと、自身の今後の人生に影響ありと思い詰めた)、何度も飛ぼうと決意しては臆して中止、ついにある日、飛んだ。しかし、足が届かず、水中に落下、テトラポット群で文字通り「早瀬」と化していた水流に動きがとれず、飛び移れなかったテトラポットに1時間余しがみついていたあげく、やっと川原へ這い上がった(これを彼は、十分に成人してから親に告げたのである。それほど「不名誉な体験」だったのだ)。

中学生時代は、「あがきながら通過するしかない、すさまじい無法の時期」(『ニューヨーク・タイムズ』コラムニスト、ニコラス・クリストフ)であるわけだが、なりふり構わず生き延びることが最優先される以上、幼稚さが大前提となる。成人社会では生き延びる上でのハードルは異様なまでに引き上げられ、なりふり構い放し、大統領選などは最高のハードルと化す。幼稚さの棄却もまたハードルの1つだが、前の拙稿で触れた、成人するにつれてわれわれが自らを「盆栽化」せざるをえないのも、ハードルの高さと精緻化に怯むがゆえである。

中学生でも、「秀才」は世に出る前のハードルの高さをなぜか早くから心得ているし、それゆえに仲間や教師から一目置かれてもいる。しかし、大半の生徒らは秀才に反発、がき大将につくか、がき大将も秀才から子分を奪うことによって面目を保つ。動きが鈍い生徒は、がき大将から見せしめに使われる。前記の筆者の長男は、テトラポット以上の試練に晒され、2人のがき大将同士を喧嘩させる苦肉の策で危うく虎口を逃れた(これまた、成人後、筆者に告げた話である)。

ところが、この「野蛮な幼稚さ」を、トランプは成人後も残している。それこそが、彼の人気の源泉だろう。一概には言えないが、先進諸国で「物品生産」の工場労働が激減する事態を読めず、高学歴の取得を見送った「高卒白人」は、教師と秀才に露呈された人間社会の普遍律を無視、「7年生」の社会観のまま成人した。日本と違って、多民族社会のアメリカでは公民権運動、さらには女性の意識の先鋭化も進み(前述の行列での白人女性の勇猛果敢さを見よ。にもかかわらずウーマンリブもなぜか日本では尻すぼみ)、「高卒白人男性」は先鋭化された女性の意識のせいで割りを食ったと思い込んだ。工場労働の海外逃避でも割りを食った「高卒白人男性」にとっては、トランプの幼稚さこそまさに「理想像」と映るのではなかろうか。ディベイトでの彼は、クリントンからここ数年、連邦税未納と指摘され、「だからおれは頭がいいんだ!」と応じた。まさに7年生の論法なのだ。とはいえ、彼はこの手を成人社会で使っているのである。「高卒白人男性」の多くは、それだけの「度胸」もないので、トランプが放胆にも振りかざす「失われた野蛮な幼稚さ」に満腔の敬意を表するのだ。

「野蛮な幼稚さ」は、ディベイト後も、発揮された。その典型は、『ニューヨーク・タイムズ』のヴェテラン記者らに対して次回のディベイト(10月9日)では、「亭主の不倫を黙過、政治的目的だけで結婚生活を維持し、亭主と不倫した女性を誹謗したヒラリーの卑怯さを弾劾する」とすごんでみせたのである。「ヒラリーは汚い。しかし、おれのほうが汚さでは引けはとらないぞ」。

●ヒラリー勝利でペソ高騰●

さて、肝心のディベイトの勝敗だが、クリントンに軍配を上げる者が多い。CNN/ORC即時調査では、クリントン勝利62%、トランプ勝利27%と出た。9月、突如、トランプの盛り返しによろめいていた彼女の支持率は勝敗を分かつ拠点州で逆に盛り返した。例えば、トランプの喉頸である重要州、フロリダでは、彼女支持46%、トランプ42%と再び逆転(メイスン=ディクスン調査社)。ただし支持層は、女性、ヒスパニック、黒人だから、彼女の固定支持層自体が揺れ動いている気配が感じられる。いずれにせよ、ディベイト前に行われていた「ニューヨーク・タイムズのアップショット欄/シエナ大学共同調査」では、フロリダでは事実上2人はタイだったから、討論後の4%差は彼女のディベイトでの勝利を裏付ける。(但し、本選挙ではフロリダはトランプ勝利である。)

さらには、選挙人数わずか4名ながら、緒戦での勝利が全体の動向を左右するニュー・ハンプシャー州でも、彼女は42%、トランプ35%(WBUR調査)。フロリダとの数値差は、第三党候補への支持率の差。フロリダでは7%のゲアリー・ジョンスンが、民主・共和両党に不満な者が多いニューハンプシャーでは13%獲得。なお、ジョンスンは戦乱下に苦しむシリア北西部の古都アレッポを知らない無知な人物だが、トランプとクリントン双方に不満なアメリカ人の票がジョンスン(第三党候補)に流れている。ちなみに、緑の党の候補ジル・スタインはニュー・ハンプシャーで4%。(彼らについては、反クリントン熱を扱う箇所で後述しよう)。

さらに、トランプにとってフロリダの次に大事なミシガンでは、クリントン42%、トランプ35%、ジョンスン9%、スタイン3%(デトロイト・ニュース)。

なお、これら2州では、圧倒的多数がディベイトではクリントン勝利と出た。ミシガンでは、63%が、「トランプに大統領の資格なし」と断定。前回触れた、トランプ初の黒人教会スピーチにもかかわらず、デトロイト郊外、オークランドでは彼の支持率は20%落ちた。(とはいえミシガンも、本選挙はトランプの勝利に終わった。)

さて、ディベイトの結果に最も鋭敏に反応するのが経済市場で、ディベイト開始前の午前9時、市場はトランプの大統領選勝利確率を35%と見ていたが、討論終了時点の11時、30%以下に落ちた。市場の鋭敏さは、ヒラリー・クリントンが所得申告書の件で相手をやり込めると(後述)、株価が一気に上昇した点にも窺える。

いずれにせよ、午前9時~11時は、普段なら株価は目立つ動きを見せない時間帯
なのだ。しかも、ディベイトでの株価の動きは異様に額面が大きかったのである。おまけにペソが急騰した(反メキシコのトランプの敗色濃厚と見られたのだ)。

また、爾後のディベイトでかりにトランプ優勢となれば、株価は急落すると見られていた。このことは、主観的な世論よりも実利がかかった相場のほうが、強くトランプを忌避している――「おれはビジネスに強い」と豪語する彼を忌避しているように思われた(この時点では!)。数値が命の相場だから、数値でこれを確認すると、ディベイト中にトランプ当選の比率は6%近く、彼の勝利と敗北間の落差は6%の16倍に達すると見られ、すなわち討論日の夜時点の株価換算では2人のうち彼女が当選した場合、彼が当選した場合の16倍になるという計算が出されたのである。さらに込み入った計算は、この16の倍数を掛け合わせた結果――もっともどういう計算になっているのか、筆者には分からないが――トランプが当選すれば株価は10~12%低下すると出たのである。つまり、「ビジネスなら任せておけ」と大見得を切る彼が当選すれば、全米大企業の利益が10~12%低下するというのだ。彼が言い張る企業税の減額では、とうてい追いつけない痛手となる。そして「ウォール・ストリートの懸念は、メイン・ストリートの懸念」なのだ(後者は「世間全般」を指す)。以上は、ジャスティン・ウォルファーズ(ミシガン大経済学教授)による。

(しかしながら、この予測もびっくりするほど外れた。本選挙でトランプが勝利した翌日の11月9日、アメリカの株価は急騰。その後も株価は高騰をつづけ、ダウ平均は1万9000ドル、2万ドルの壁を次々に突破し、史上最高値を更新。現在(2017年3月)も高値を維持しつづけている。このように、よくも悪くも事前の予測がまったく通用しない。これがトランプ現象の奇妙な点である。)

ところで、前記のベネット記者によれば、「女性が会議の席で男性に遮られる」という英語ができている。「マニンタラプト=マン+インタラプト」である。この事実は、トランプの異常な「マニンタラプション」によって幾多の女性に苦い思いを蘇らせた。筆者のように、男性でも、遮るだけの荒々しさを持ち損ねた者にも、彼の厚顔無恥な無礼には怒りをかきたてられた。

ディベイトにおけるトランプの愚かさは、千軍万馬のヒラリー相手に「マニンタラプション」が通用すると思い込んでいた点に集約される。これは、前回のトランプについての拙稿で触れた(1)「セルフ・サイジング・アップ」vs (2)「世間のサイジング・アップ」の鬩ぎ合いでの焼き入れのひ弱さを窺わせる(要するに、彼の場合、鬩ぎ合い結果がただの「駄々っ子」の域に止まってしまっているのだ。他方、ディベイトでヒラリーが見せた強かさは、彼女の鬩ぎ合いが(1)&(2)ともに過不足なくたがいに焼きを入れ合ってきたことを窺わせる。

一般に会話中、しきりに鼻をなでれば、隠し事のある証拠とよく言われる。ボディ・ラングイッジの重要性が叫ばれて久しいが、『ニューヨーク・タイムズ』は今回の討論中、記者の1人(男性)に音声を消して2人の表情や動作だけを観察させた。むろん、トランプの動作は狂乱的で「マニンタラプション」前に激しく苛立ち、マイクを調整しようと焦り(討論後、「マイクに仕掛けがあった」と強弁。皮肉にも、故障は事実と判明する。いじくり回したせいなら自業自得)、演壇の両端を掴んで体の安定を支えようとし、踵に重心を置いて体を揺すった。マンガに描かれたたように、不平たらたらという感じで唇をすぼめ、眼球をきょろりと回し、相手に流し目を投げ、首を振り、水をがぶりと飲んでは唇をなめ、「マニンタラプト」した。冷笑を浮かべる以外、前述のアル・ゴアの「御法度」を全て冒したのである(同じ民主党同士、ヒラリー・クリントンへの「ゴア御法度」の全てを共和党候補が全て演じてくれた!)。この記者(テレビ音声を消して画像だけ見ていた)は、「マニンタラプト」の瞬間、思わず「違反(ロング)!」と叫んだが、これはクリントンの非難に対してトランプが叫んだ「違う(ロング)!」と同じ言葉だったのは、一層滑稽だった。

他方、クリントンは、一切のボディ・ラングイッジを統御していた――と、この記者は主張する。この日に備えて、厳しい訓練を経てきた成果が出たのだ。彼の異常な「マニンタラプション」に苛立つどころか、むしろ楽しむだけの余裕があった(記者談。筆者も同感)。彼女の白い歯を見せる大きな笑顔は、実父の真似と言われるが、男らしく見せる目的とは裏腹に、彼女のチャームポイントであり、それが焦るトランプとは極めて対照的だった。しかし、彼女は相手を追い詰めようとはせず、他方、彼女を追い詰めようと焦る相手を勝手に浮き上がらせたのである。

トランプが連邦税未払いを彼女に咎められて、「それはこっちの頭がいいからだ」と反論、さらには「それがビジネスというものさ」と答えたのは、彼の独壇場、「自打球を足に当てる」結果に終わった。これは、彼女の「配慮不足」を世間が咎めようがない場面である。彼女は、ディベイト直後、ノース・キャロライナ州都ローリーでの遊説でこうぶった。「リーマン・ショックでは、900万ものアメリカ市民が差し押さえで家を失いました。これへの対処を怠った無責任な人物を大統領に選ぶなどもっての外です」。

「リーマン・ショック」時点で政治家でなかったトランプを「無責任」とは言い辛いが、時のブッシュ息子大統領、特に財務長官ヘンリー・ポールスンらは、共和党員ながら火消しに躍起になった(拙著『ニューヨークからアメリカを知るための76章』明石書店)。

以上、本選挙候補が初めて「差し」で衆人環視の中で会いまみえる大統領選ディベイトは、両者が相互に「難局」を投げ合い、両者がそれを咄嗟にどう捌けるかを視聴者に見せる自己証明の場で、すでにしてホワイトハウスでの捌きぶりの予行演習である。

ディベイト翌日早々、トランプは、やれマイクに邪魔な仕掛けが施されていた、司会者がクリントンを依怙贔屓したと不平たらたら、民主党の副大統領候補、ティム・ケインは、「あんなに苛立つくせに、実際大統領をやれるものならやってみるがいい」と嘲笑った。他方クリントンは元気にノース・キャロライナ州都での遊説に出向いた。残る2回でトランプはえげつなさを倍加する以外に手がないが、それは自らの首を締めるだけではないだろうか。(但し、ノース・キャロライナも本選挙ではトランプ勝利だった。)

マイクの故障が事実と判明したのは、あたかもトランプの主張を裏づけるかのような偶然だが、トランプの小心さも露呈された。彼のマイク音声だけが異様に低くなる現象は、ホーフストラ大学の聴衆も気づいていたが、「クリントン夫人より声が少し低くなったかな」と言う冷淡さだった。事前の点検では異常はなかった。トランプは演説中も音量を上げようとして不首尾、体を前に屈めて少しでも音声を上げようとし、「おれが話すとき、誰かが操作したんだ。おかげでこちらは持ち時間の半分はこの気掛かりに吸い取られ、論点を絞りきれなかった。よっぽど討論を中止させようとしたけど、1億人が視聴しているんだぜ。言い出せるかよ」。

ヒラリー・クリントンなら、正々堂々と抗議したと、筆者は思う。がき大将は、子供時代の「反体制派」ゆえに逆に「権威」を過剰に意識しすぎる傾向があるのか? ともかく、この屈辱を晴らすには、事前に「『亭主の不倫を黙過、女性の味方を口にしながら、モニカ・ルインスキーらを攻撃した偽善者』としてヒラリーを攻撃する」という支離滅裂な「宣戦布告」を行う破れかぶれかぶりとなるのである(討論後、自身の3回の結婚については、どう釈明するのか? と、記者に聞かれると、「あれには何も問題はなかったし、おれは合衆国大統領じゃなかったんだから、その話はなしだ」とかわした)。

●第1回ディベイトの掘り下げ●

いくつか、ヒラリー・クリントンが優勢だった点を見ておこう。

総じて、「マニンタラプション」の異様な頻度とディベイトの準備訓練回避ゆえに、30分経過時点でトランプは「ガス欠」に陥った。かねがね自党候補やクリントンに「スタミナがない」と嘲ってきた報いが自身に跳ね返ってきたのである。これが彼をよけい滑稽にみせた。

「今夜が終わるころには、世界で起きたことの一切合切が私の責任だと言われている気がしてくるでしょうね」と切り返した彼女に対して、トランプは「当たり前じゃないか(ホワイ・ナット)?」と突きを入れた。しかし、彼女はさらにこう切り返したのである。「当たり前ですって? 当たり前か。あなたって、討論となると、さらにクレイジーなこと積み上げてこれぞ討論でございとなるのよね」。

司会者のレスター・ホールド(NBC/黒人)は、トランプが発言中のヒラリーに割り込み息も継がせずしゃべりまくるので、たまに注意はしたが、利き目はなかった。とはいえ、例によって虚言だらけ、司会者が頼りないので、討論者側が対処する以外に手がなかった。ヒラリー・クリントンの失点は、納税書類の提出を拒む異例さを攻撃したとき、トランプが彼女がどうして3万3000通の削除eメイルを公表しないのか? と、「買い言葉的反撃」をかませたとき、聴衆の間に珍しく拍手が起きたことだった(会場を提供したホーフストラ大学側は聴衆に拍手喝采を禁じていたから、珍しい反応だった)。

しかし、討論を凝視した識者の大方の評価では、彼女が優位に立ったと見る――彼女の「嘆かわしい手合い」発言を批判した前述のヴァンスでさえ、今回は彼女に軍配を上げたのである。

前述のように、トランプは自身のスタミナ切れでやっと思い出したか、討論の終盤、クリントンが大統領にはスタミナ不足というを耳にタコの非難をまたぞろ繰り出して、こう逆ねじを食わされた。「私にスタミナ云々と言うのは彼が、以下の条件を果たしてからにしてもらいたいわね。112か国を歴訪、和平交渉を手がけ、異論を調停して、世界の国々との関係に新たな機会を開き、議会の委員会で11時間も証言に応じてから、私にスタミナ云々を言ってほしい」。むろん、国務長官として彼女がこなした力業と、eメイル問題で官女を貶めるべく共和党委員会が彼女を査問にかけた11時間を指していたのである。トランプはグウの音も出なかった。

ヒラリー・クリントンは国務長官として支持していたTPP(彼女は「黄金率」とまで呼んだ)を選挙戦では支持を撤回した点を突かれて、彼女は「まあね、ドナルド、あなたはあなたにしか分からない世界に生きてる人だけど、それは事実じゃないわよ」と応じた。トランプは、相手の中途半端な反論だけで矛を収め、絶好の追撃の機会をむざむざと見送ったのである。また、eメイル問題の追及でも、彼女が「あれは間違っていた」と認めると、トランプはそれ以上の追及をしなかった(いや、スタミナ切れで追及できなかったのだ)。

ディベイトの終わりに際して、ヒラリー陣営は絶妙の一差しをくれた。ヒスパニック票の発掘とトランプの女性差別とを抱き合わせる戦術をとったのである。特に苛立ち易い相手を「逆上点」に持っていく選対の戦術(特別篇2参照)が、討論最後に地雷として用意され、ズバリ奏功した――最後だからこそ、相手の取り乱し様は最高の見せ場を作った。ヒラリーほどの相手に対しても無手勝流で対するトランプの八方破れ戦略が、致命傷を食らったかに見えた瞬間だった。

1996年のミス・ユニヴァースに選ばれたアリシア・マチャードー(ヴェネズエラ代表)をトランプが「おでぶ(ミス・ピギー)」呼ばわりした前科を暴いてみせたのである。まさに満を持しての突き入れだった。簡単に背景を説明すると、当時、トランプはミス・ユニヴァース・ショウのプロデューサーでアリシアをジムへ連れていき、メディア陣の眼前で彼女に運動をやらせ、メディアにこう告げたのである。「この娘は食べずにはいられないんだ」。

主催者側は、彼にプロデューサーの権利を売りつけていたのだが、彼は彼でこういうショウに目がないのである。

とはいえ、この屈辱ゆえに、アリシアは拒食症に陥った。トランプは主催側として、「アメリカの裏庭」と蔑視されてきたヴェネズエラ代表が栄冠をさらったことに常軌を逸する怒りを抱いたのかもしれない。

ヒラリー・クリントンは、トランプがアリシアを「おでぶ」、「ミス・ハウスキーピング」(ヒスパニック女性はアメリカではメイド業が多い)呼ばわりしたと告げ、「ドナルド、彼女にはれっきとした名前があるのよ、アリシア・マチャードーという名前がね」とクギを刺した。激怒したトランプは、直ちに「マニンタラプト」、さすがに肚をくくっていた司会者ホールトは、「持ち時間は2分」と制止を入れた。トランプは喚いた。「この話をどこから仕入れたんだ?」と繰り返したのである(当人が忘れていた話なので、完全に虚を衝かれたのだ)。そして司会者の制止を無視して、自分がいかに「中傷」にさらされてきたかをまくしたてた(自身が乱発してきた膨大な「中傷」は棚に上げて)。

情況的には、トランプは前の拙稿(特別篇2)で触れたキズル・カーンの場合と似た窮地に追いやられたのである。

クリントンは、こう言った。「アリシアは、最近ヴェネズエラからアメリカ国籍をとり、この11月には合衆国市民として大統領選で投票するのよね」。

もう少し詳細を、マチャードーの口から聞くと、彼女は十代でミス・ユニヴァースになった後、12ポンド体重が増えた(トランプはもっと増えたと主張、彼女を「ミス・ユニヴァースどころか、『ミス飯食らい機械(イーティング・マシーン)』だ」と罵った。「この疵は20年たっても癒えない」と、アリシアは嘆く。

ヒラリー・クリントンが彼女を絶好のトランプ攻撃兵器に使った結果、アリシア・マチャードーは20年もの空白から突如メディアの世界へ引き戻され、テレビでの言及6023回、トゥイターでの言及に至っては20万回近く、有名TV番組、「トゥデイ」(NBC)、「グッド・モーニング・アメリカ」(ABC)、その他CNN、MSNBC、フォックス・ニュース等々に出演した。フォックス・ニュースでは、同社主催の共和党初回の候補者勢ぞろいの討論の場でトランプに侮辱されて名を馳せたメギン・ケリーがアリシアへの質問役で登場、相手がトランプの侮辱で拒食症に陥った経緯を引き出した。

トランプが2016年の大統領選に躍り出てきた経緯は、「メキシコからの不法移民には、麻薬カルテル関連の犯罪者が多い」、「メキシコ国境に『壁』」を築く、費用はメキシコ政府持ちだ」などの暴言だった。そんなトランプに対しては、ヒスパニック(全米有権者総数の12%。ちなみに日系を含むアジア太平洋系有権者は4%)の多くがすでに背を向けているが、マチャードーの一件でクリントン陣営はこの流れを加速させた。むろん、クリントン選対は、トランプのかつての女性への横暴と、その被害者が前ヴェネズエラ女性だったことによってヒスパニック票の獲得という、まさに一石二鳥の作戦を、トランプ相手にディベイトの最後に断行させた。そして、クリントンは、見事に作戦を成功させてみせたのである。

2012年のヒスパニック有権者は10%だったから、4年で2%増加は実に急激な増加(もっとも、今日最高の増加率を示すマイノリティはアジア太平洋系で、2012年の有権者800万、4年後のの今日930万)。とはいえ、2012年、アジア太平洋系の47%しか投票しなかったように、マイノリティの場合、公民権運動主導で鍛えられたアフリカ系以外は投票率が低い。しかし、トランプのおかげで、共和党支持が多かったアジア太平洋系が民主党支持に移動を開始、さらには彼の「壁」発言に怒ったヒスパニックの有権者登録が増えていると、グーグルが伝えている。

アメリカでは、日本のように投票用紙が送られ、それを持参、即投票とは行かず、まず最初に「有権者登録」という手続きが必要で、黒人らはまずこの登録で白人暴徒や白人の役人に邪魔された(登録に行くと、相手が黒人と見て取った白人の受付がサッとカウンターから奥へ引っ込んだ)。「投票権法」(1965年)でこの差別は廃止されが、有権者登録は残り、黒人や有色人種にはこの制度自体過去の苦い記憶を呼び覚まされるため、全般に投票率が低くなる。

さて、ディベイトから5日後の9月30日深夜3時20分から5時半、トランプはトゥイターの「機銃掃射」をしてのけたのである。主要な標的はマチャードーだったから(何の証拠もないのに、彼女が「いかがわしいセックス・テイプ」に出演と断定。トランプ専用のメディアのファクトチェッカーが即座に作動したが、テイプは存在しなかった)、クリントンに虚を衝かれた悔しさのほどが分かるとはいえ、ディベイトから4日たっているのだ。従って彼の「噴火」は、意識下の込み入った迷路を潜り抜けて噴出までに4日を要したことになる。そして深夜に「噴火」は起こった(筆者の経験でも、深夜に浮かんで書いた文章は、書いた瞬間は〈われながら天才的〉と興奮させられるが、翌朝読み返すと使い物にならないように、深夜は正気を危うくさせる)。トランプを我に返らせてくれる選対は、周りに1人もいない。そもそも「我」などというしろものは、彼にははなから存在しないのかもしれない。『トランプの真実』という伝記を出したばかりのマイクル・ダントニオによれば、「これはやっこさんの危険な部分で、行き過ぎた行動に出ては事をぶち壊す」。

マチャードーへの執拗な敵意は、ヒラリー・クリントンへの敵意と重なっているはずだ。ただ、ふしぎなことに、トランプはこうトゥイートしている。「クリントン夫人は、最低のわがミスUに騙され、利用され、彼女のひどい身元調べもせずに彼女を『天使』としてメディアにフロートさせたのだ。ひどい話じゃないかね」。「ミスU」は「ミス・ユニヴァース」だが、一見、マチャードーへの敵意のほうがクリントンへの敵意を凌駕しているかに見える。これは、この男の何を物語っているのか? 筆者には、ディベイト4日後に、深夜、「噴火」を起こし、クリントンよりマチャードーを論難する幼児性にこそ興味がある。つまり、彼の「闘志」が、ディベイトで敵しえないと思い知らされたヒラリー・クリントンよりも弱いマチャードーへの敵意に「転嫁」されているのだ。この卑怯な転嫁は、トランプの立ち位置を見失わせる不眠症を引き起し、「トゥイター噴火」を引き起こした。

さて、女性への侮辱は、われわれ男性の根深い女性コンプレックスに根ざすもので、トランプの幼児体験を浚ってみるしかない。特に、ヒラリー・クリントンのような異彩を放つ女性は、トランプにはネジ曲がった彼のイド(本能的衝動の源泉)では消化し切れまい。ヒラリーに対しては、存在論的な恐怖しか感じられないかと思われる。ヒラリーに傾倒できたビル・クリントンとの大きな違いだが、そのビルですら、モニカ・ルインスキーのような女性に気を逸らせた。後述するトランプのヒラリーへの膨大な敵意は、分析に値するのだが、目下、古代ギリシャ男性がアマゾネスという架空の女性戦士を捏造した背景に思いを馳せる程度に止めたい(前述)。ウーマンリブの女性理論家らは、ブラジルの大河にアマゾネスの名を冠したコンキスタドーレスらの心理的背景は、大自然の征服が最強の女性の征服にダブらされているとした。これらの女性は、弓を引くとき邪魔になる側の乳房を切断したので、「乳なし(アマゾーン)」と呼ばれた。

ウーマンリブの理論家らは、カリフォルニアの命名にも、同様の解釈を下した。今日のバハ・カリフォルニアが島と勘違いされていた当時、スペイン人船乗りらは、この「島」には黒人アマゾネスが住んでいて、彼女らの女王がカリフィアと呼ばれ、後にカリフォルニアと命名されたというのである。

問題は、古代ギリシャ男性が、こういう神話的女性を「創造」した心理的背景である(アーヴィン・ネル・ペインターの力作『白人の歴史』東洋書林拙訳を参照)。ペインターによれば、アマゾネスの初発のモデルは、騎乗の習慣があったスキタイの女性たちだったのでは? と書いている。

深夜の「噴火」のおかげで、トランプのトゥイターには1200万弱ものファンがついていると言う。彼らが「高卒白人男性」とどの程度ダブルのか不明である。

いずれにせよ、ヒラリー・クリントンにしてみれば、「噴火」は「トゥイター・メルトダウン」にすぎず、「今回のはいくら彼でも錯乱としか言いようがないわね」ということになる。「錯乱」の英語、「アンヒンジド」は「箍が外れている」という意味である。一方、トランプ自身は、こう言い張っている。「夜中の3時にトゥイートしてくる者がいれば、こっちは目をさまして返事をするぜ!」。

●トランプが創り出したタイタニック●

ところでトランプは、歴代大統領選本命候補では初めて納税資料の公表を拒否し続けていた。拒否の理由は「IRS(国税庁)の会計検査中」ということだが、従来の大統領選候補たちはIRSの査定抜きで自分の納税資料を公表してきたのに、である。

そのトランプの1995年度の納税書類の一部を、ついに『ニューヨーク・タイムズ(NYT)』が入手し、10月1日、公表した。

この書類は9月にNYTに送られてきたのだが、封筒から見て、トランプ・タワーからの発信、中身は、(1) ニューヨーク州居住者の納税申告書、(2) コネティット州、及び、(3) ニュージャージー州非居住者の納税申告書、のそれぞれ最初の1頁だけ合計3頁という中途半端なもので、トランプの財務状況を担当してきたNYT記者スザンヌ・クレイグ宛だった。

NYTは、これ以上の背景を公表しないのだが、この事実はトランプ陣営の何者かが裏切った可能性を示唆しているとしか思えない(その背景の開示こそ肝要だが、それは先の話である)。

NYT側は1996年まで30年間トランプの機密に与ってきたジャック・ミトニック(80歳)に分析を依頼、まず書類の信憑性を確認(ミトニック自身が扱ったものとの承認を掴んだ)、以下の結論に辿り着いた。

1995年、トランプ側は、9億1600万ドルの欠損を出して、以後18年間、連邦税の支払いを免除された(IRS規定では、ロスが出た3年前から、ロス以後の15年間、合計18年免除)。ロスの大要は、1990年代初頭のアトランティック・シティのカジノ群の不首尾(キャッスル・カジノ1つで9320万ドル欠損)、航空事業での失敗(3億6500万ドル)、マンハッタンの有名ホテル、プラーザの買収(4億700万ドル)等々の負担だった。

NYT入手のデータが不完全で、以後の年度は不明ながら、1995年度の9億1600万ドルのロスは、1年につき5000万ドルと見れば、18年間、税を発生させる利益がなかったことになる。

前述のディベイトでヒラリー・クリントンから指摘されると、「おれが頭がいい証拠だ」と愚かな大見得を切った。だが、普通、これだけのロスを発生させれば倒産あるのみのはずが、18年も税金を収めずにすんだことは、「頭がいい」と自慢できる話ではある。特に労組という公道徳の刷り込み装置を失った「高卒白人男性」には、こういうトランプの悪達者さは垂涎の的になるのだ。

前記のミトニックこそ、この離れ業を仕組んだ張本人で、彼は長らくトランプの父親フレッドの税務参謀を務め、ドナルド18歳のときから彼の参謀になった。そのミトニックによれば、精緻だったフレッドに比べて息子は大雑把で、税務書類への署名で常に質問したのは、イヴァナ夫人だったという。しかし、ミトニックは、「トランプは納税回避で財産を造る術は熟知していた」と言う。

いずれにしても、トランプが創り出した状況の切迫感をわれわれが理解する努力は不可欠だろう。危機の切迫時期、早々に逃げ出さなかった重役の1人は、「タイタニックに乗り合わせて、女子供を救命艇へ急がせる気分だった」と表現している。この重役によれば、危機の切迫は1990年、すでに始まっていたが、ドナルド・トランプが操舵を握った1980年代に開始され、1990年までには借金は34億ドルに達していた(その大半が高利のジャンク・ボンド)。この金額でドナルドがかぶるのは、8億3250万ドル。ところが、この奈落への転落過程で、ドナルドは2900万ドルでヨットを買っているのだ――前記のプラーザ・ホテル(4億700万ドル)、航空会社「トランプ・シャトル」(3億6000万ドル。わずか半年でこの有り様)と一緒に! まさに「毒を食らわば皿まで」である。

さらに、アトランティック・シティのキャッスル・カジノは、1990~1991年、9320万ドルの損失、リージェンシー・ホテルの欠損830万ドル(1991年)、トランプ・カジノ欠損2920万ドル。

とはいえ、前の拙稿で触れたように、トランプは自己企業の所有関連の法的整備を迷路化、自己負担を「軽装化」する智慧を砕いていたのである――特にカジノの所有関係については。おかげで、カジノ取締機構、「カジノ統制委員会(CCC)」は、相手の惨状を把握していながら、英断が下せなかったのだ。「打つ手がなければ、われわれとしてもお手上げだった」と、CCC側は言う。

いずれにしても、1991年末時点、トランプの手持ち資金は、170万ドル――それも数か月で80万ドルに目減り、ついには1990年末、1840万ドルの利息が払えず、実父フレッドはキャッスル・カジノに弁護士を派遣、330万ドルのチップを買わせ、それの現金化をしない形で援助するも、焼け石に水。前の拙稿で触れた「実父による品定め」は、これで底をついた。すなわち、実父フレッドは一族の資産の蕩尽を覚悟したか? それとも自分を越える息子の異様なスケイルのほどを見届けたのか?

1993年時点では、ドナルドはついに他の身内(兄弟姉妹)に1000万ドル借金、翌年さらに2000万ドルの用立てを彼らに懇請してを拒否されている。以後、トランプ・シャトル、ヨットなどを手放し、管財人から月額45万ドルで暮らせと言い渡される。

とはいえ、前記の税務対策(18年間、連邦税支払い免除)のおかげで2001年には、トランプは身を立て直すが、NYTが入手した税務データ(1996)時点で、トランプは、車体を延ばしたリムジン(ストレッチ・リムジン)に座って、報道陣に「わが生涯最良の年だ。こちらの粘りが正しかったことが証明された」と、奈落からの生還を自賛してみせたのである。

以上は、トランプがホワイトハウス入りしたとき、全米はおろか、全世界が奈落に落ちる光景の予測地獄図になるかもしれれない。もっとも、世界中の国々が「国家債務上限」を議会で引き上げては生き延びてきている実情を思えば、共和党側は「それがどうした」と開き直るだけかもしれないが。とはいえ、前述のディベイト惨敗、トゥイターでの「大噴火」、そしてこの「脱税騒ぎ」と、まったく息つく暇もない有様だ。

一方、ヒラリー・クリントンは、「高卒白人男性」の牙城、オハイオ(「鉄錆地帯」、そしてスプリングスティーンのヤングズタウンで前述)に乗り込み、「彼は何かと言うと、『操作されてる』と非難するけど、彼こそ『操作』の張本人じゃないの」と攻撃を展開した。「あれだけみごとに税法の抜け穴を利用してのけたんだから、操作以外の何物でもないじゃないですか!」。

ところが、トランプはコロラドで、「おれは税法をもののみごとに利用してみせた。だからこそ、欠陥だらけの制度をオーヴァホールできる資格がある」と強弁してみせたのである。(コロラドは本選挙でクリントン勝利。)

とはいえ、このとき投票日まで残り5週間しかなく、陣営はパニックに陥っているようだった。こうなると、NYTがどういう手蔓で税務関連書類(たとえ、3点の各1ページ目だけにもせよ)を入手したのか、大いに興味のあるところだ。NYTは全社を挙げてヒラリー・クリントンを支持、トランプ廃除に邁進していた。

一方、クリントンは、「高卒白人男性」を「嘆かわしい手合い」呼ばわりした時点で彼らに対してほとほと匙を投げていた――その証拠に彼らの牙城オハイオには労働記念日(9月の第1月曜)以降、来ていなかった(なにしろ州全体ではトランプ支持50%)。とはいえ、祖父がアメリカへ移住前、郷里ウェールズで炭鉱夫だった彼女には、長らく白人労働者の支持層があり、オハイオでの彼女の支持は46%(CNN/ORC、9月調査)もあった。同州には選対300名を常駐させ、ヴォランティアを駆使して、有権者登録を推進してきていた。

さらに言えば、前の拙稿で触れたスプリングスティーンの歌で名高いヤングズタウンは、オハイオ州北東部、まさに「鉄錆地帯」にあるのだが、クリントン支持46%、トランプ支持33%と、彼女は相手に大差をつけている。ここではまだ労組=民主党という図式が生きているはずだった。スプリングスティーンもギターをかき鳴らしながら、ヒラリー支援スピーチを行った。

経済の才能ではトランプ支持が多かったのだが、「脱税」に到る借金の「タイタニック的惨状」を見れば、さすがの「高卒白人男性」の間でも彼の評判は地に落ちたのではないだろうか。

とはいえ、オバマ政権下で生じた成長が、彼らには及ばない仕組みになっているのだ――最下層に御利益が滴り落ちるまでには猛烈に時間がかかるのである。その確証は、トランプと「高卒白人男性」が挙って否定するNAFTAの実情からも容易に窺える。(オハイオは本選挙ではトランプの勝利。)

成立から23年を経たNAFTAで造られたアメリカ車はもはや米加墨3か国で製造された部品の合作である(エンジン、変速機、電子部品その他の精密機構は米加で造られ、バンパー、座席、ダッシュボードなどはメキシコで製造、組み立て)。いや、牧牛業自体、食肉牛の群れは米墨国境を自在に越えて草を食んでいる。メキシコの丘陵地帯で草を食み、アメリカのサイロでコーンを食った後、食肉に供されるのだ。デルのコンピュータはテキサスでデザインされた後、メキシコで組み立てられ、世界市場に売り出されるが、NAFTAのおけげで、中国の安価なレノヴォと市場を競り合えるのである。

この方式は、EUでもドイツが精密部分を造り、ポーランドやハンガリーで周辺部分が製造される形で実施されている。

問題は、トランプの詐術ではなく、単純労働をメキシコに奪われた92万6000人のアメリカ人自動車労働者に職業訓練を施すことだが、彼らはそれに応じない(1993年12月以降、失職した92万6000人は労働力の15%。彼らの全てが「高卒白人男性」ではなく、黒人もヒスパニックもいる)。職業訓練に応じない以上、オバマ政権下での御利益が滴り落ちても、それを受け止める受け皿がないのである。かくして、「高卒白人男性」は絶望のあまり進んでトランプに騙される地獄絵を繰り広げているのだ。

とはいえ、アメリカの高校での落第が相次いでいるのは、生徒らが過酷な数学の負担に喘いでいるためで、高卒者をロボットには代行できない仕事に就かせる苦肉のカリキュラムのせいだ。そういう善意から出た「職業訓練」の趣旨が、数学者らの教職陣取り合戦に利用される新たな地獄図を抉る新刊書は、明石書店から拙訳で出る予定。

以上再読してもトランプが一般投票で300万票弱、ヒラリー・クリントンに負けたくせに、選挙人数で勝てたからくりは、近刊の単行本で詳述する予定である。

(一言付言すれば、CNNのサイトで各州での投票数を見ていくと、カルフォルニアでヒラリーはトランプに約430万票の大差をつけて勝っている。これは全国での得票数の差、約300万票よりもはるかに多い。ということは他の州では……。結局、ヒラリーは確かに油断していたのである。)

●トランプより面白いマイク・ペンス寸描と「10月サプライズ」●

一方、10月4日の副大統領候補同士の論戦は、トランプと正反対のマイク・ペンスが作戦勝ちだった。

この人物は、キリスト教右翼だが、超人気のラジオ・パースナリティにひっかけて「私はカフェイン抜きのラッシュ・リンボウだ」と自称してきた。

対する民主党候補、ティム・ケインは、トランプに迫る「遮り」に逸り立ちすぎてしくじった。「腕達者のかわし屋(アートフル・ドジャー)」は、ディケンズの『オリヴァ・トゥイスト』に出てくる掏摸(すり)の少年だが、ペンスは卓抜な「かわし」で相手を浮き上がらせた点では、親分(トランプ)の失態を埋め合わせた。彼の卓抜さの最大の証拠は、トランプという手に終えない相手を鎮静化、自分をコンビに選ばせた点にある。ペンスは、まるで消しゴムのように親分の失態を消していった。まさに「ペンス」以上の値打ちで、トランプ唯一の有効人選だったかもしれない。世渡りがうまいミニマリストには事欠かないが、ペンスほどの仕上がりは彼の人生の裏側に興味を抱かせるに足る。ケインがいくら挑発してもペンスは舞い上がらないのである。トランプの子供じみた面の皮の薄さを思えば、いっそペンスのほうが大統領候補に向いているのでは?

世間の品定めを狂わせる詐術という視点に、本稿では言及していないが、この人物のそれが生まれつきなのか、後天的なものなのか、後者なら何が彼をして今日あらしめたかを、短編小説で扱ってみたい気がする。1991年、ペンスは議会選挙で敗れたが、その反省から「ネガティヴ・キャンペイン」を廃棄する決意が生まれた。他方、彼はキリスト教右翼として、自己の「カフェイン抜き」の基盤を固めた上で、他者には自分の人生観を強要せず、トランプのような「カフェイン過剰人種」にも小ねずみのように忠実に仕える。ヒラリー・クリントンの「失言」、「嘆かわしい手合い」も有効に活用、鋭いナイフ裁きをみせる。

お分かりと思うが、ヒラリー・クリントンがトランプを料理してのけたのを、規模縮小した形でペンスはケインを「トランプ化」してのけたのである。ペンスには、おそらく今後もきらびやかな人生は無縁だろう。むしろ彼を州知事に選んだインディアナ州民にこそ、興味がある。政治家になろうとする以上、脚光を浴びたい気はあるはずなのに、脚光を拒み、「カフェインを抜くかわし」は何から生じるのか?

●今回の「オクトーバー・サプライズ」●

さて、「10月サプライズ(OS)」という言葉は、米大統領選との関連で、「11月初旬の投票日ひと月前の土壇場で起きるどんでん返し」を指す。一番有名なOSオーエスは、1980年の大統領選で起きた。カーター大統領(民主党)は、テヘラン大使館員をホメイニ・イラン側に人質にとられ、政権の人気が低迷、再選が危ぶまれて、同年4月、デルタ・フォースによる救出作戦に踏み切るが失敗、結局レーガンに敗退する。他方、レーガン側は1980年10月、ウィリアム・ケイシーを特使としてパリでイラン側に武器供与と人質釈放という交換交渉を成功させ(ボスは大統領に当選してもいないのだから、ケイシーの山師的天才の極致)、レーガン政権発足の1981年1月2日、人質を解放させた(ケイシーは論功行賞でCIA局長に)。

これは共和党の悪達者ぶりが目立ったOSだったが、2016年は共和党に不利なOSとなった。第1回ディベイト以後、トランプには立て続けに2回OSが起きたのである。1回目は前述の税の抜け穴問題だが(10月1日報道)、今回は2005年、NBCの番組「アクセス・ハリウッド」の専用バスでトランプは「有名人になれば、女は局部をまさぐっても文句は言わない」と言う声をもろに録音されており、そのテープが10月3日公表されたのである。彼の相手役ビリー・ブッシュが噛んでいるので、筆者は最初、親戚のジェブ・ブッシュを下馬に追い込んだトランプに対するブッシュ一族総絡みの報復かと早合点しかけたが、同番組の幹部プロデューサー(ボブ・シルヴァスティーン)が2005年のトランプ発言をこの時期になって思い出したのだと判明。同時に、『ワシントン・ポスト(WP)』記者(デイヴィッド・ファーレントールド)が別の筋(NBC側はWPに機密を漏洩した「別の筋」すなわち「裏切り者」を割り出せずじまい)から録画を入手、結局Wpが先に公表したことが分かった。

「人妻にセックスを迫ったが、結局やれなかった」、「美女を見ると自動的にキスしちゃう」その他、「猥談」丸出しの喜悦に溢れたトランプの声を録音した3分間のヴィディオが、OSの核爆弾になった(トランプは声だけ)。

ビリー・ブッシュもまた、猥談時点で聞き手がむき出す喜悦を隠さない応対だから、いくら従兄弟ジェブの敵討ちとはいえ、公表は自分自身の命取りになる(事実、彼はNBCの看板番組「トゥデイ」ショウのコー・アンカーに決まったばかりだったが、この1件で下ろされた。

なお、ブラジルのリオ・オリンピックで銃で脅されたと嘘をついた米側の水泳選手ライアン・ロクトの話を本当と思い込んで取材したのがビリー・ブッシュで、早くも番組で窮地に置かれていた。そこへ降って沸いた今回の「暴露」で、ビリー・ブッシュは、「言い訳になるが、11年前の話で、私は未熟、愚かしい行動だった」と謝罪を公表した。

なお、ビリーはNBC自体からの去就が取り沙汰されていたが、10月13日、NBCを去ることになった。彼は今日46歳、彼の父親はジェブの父親、第43代大統領の実弟である。

録音時点でトランプは59歳、すでに触れた「アプレンティス」出演で知られていた。

皮肉なことに、バスが目的地に到着、赤いセクシーな衣装で出迎えた女優に、トランプはいきなりキスなどしなかった(カメラを意識? ならばなぜバスでの放恣な告白を?)。もっとも、あるミス・ユニヴァースは、何の断りもなくいきなりトランプにキスされたが(当時21歳)、以後も屈辱感をひきずってきた彼女は今回の「暴露」で、〈被害者は自分だけじゃなかった〉と気が楽になったと言っている。

●名乗り出た被害女性らの告発を空振りに終わらせた背景●

その後、何十年も前にトランプが実際に性的狼藉に及んだ事例が2件露顕した(すでにミス・ユタだったテンプル・タガートを始め、幾多の女性からトランプに狼藉されたという訴えが出ていた。今回も被害者自身が名乗り出たのだが、その1人ジェシカ・リーズ(72歳)によれば、「コーチ」、つまりエコノミー・クラスにいた彼女がステュワデスからファースト・クラスに席替えしないかと誘われ、行った先の隣席にまだ壮年期のトランプが持ち構えていて狼藉に及んだというのである。当然、トランプは白を切った――あれだけ嘘八百を並べ立ててきた男である。その女性はもはや初老で、事件は30年も前の話、実話でなければ晩年の自身の経歴に恥辱を重ねるはずがないとはいえ、自身の申し立てを実証できる手だてはもはや残されていまい(彼女をトランプの横に座らせたステュワデス、2人の異様な動きを目撃した隣席の乗客その他を捜し出し証言してもらわないといけない。

もっとも、報道した『ニューヨーク・タイムズ(NYT)』は、トランプからの訴訟を受けて立つ構えだから(全紙を挙げてヒラリー・クリントンを支持)、大手新聞の威力で証人を発掘できるかもしれない(結局、そうはならなかった)。

興味深いのは、トランプのほうからリーズに名乗り、会話の後、狼藉に及んだのは離陸45分後で、席を分かつ肘掛けを上げて「お触り」に及んだというから、45分の会話中に「発情」したことになる(もっとも、機内食が片づけられないと、行動に移れまい)。リーズによれば、「相手は蛸だった。手が何本もあるみたいだった」と言うから、発情のすさまじさが窺える。むろん、彼女は機内後部へ逃げた。

リーズが訴えなかったのは、1970~1980年代、女性の受難がほとんど合法化されていたことを示している。当時38歳だった彼女によれば、事件当時、「そんな目に逢う女性のほうが悪い」と見られていた(1970~1980年代だから、前述のように、ウーマンリブにも打つ手はまだなかった。

ただ、事件から2年後、ニューヨークでの慈善パーティの場で、トランプにばったり出くわし、相手は彼女を覚えている様子だった(彼女に向かって下品な罵言を吐いたのだ)。リーズによれば、「彼の振る舞いは心底根っからのものね」。

もう1人の被害者はうんと若く、被害も2005年だった。むりやりキスされたのである。詳細は割愛するが、重要なことは例の暴露されたテイプでの彼の発言には、「実行」が伴っていたのである――彼が終始弁明したように、「猥談(ロッカールーム・トーク)」だけではなかったのだ。

それでも、被害から30年後、リーズは第2回ディベイト後についに沈黙を破り、NYTへeメイルした。初老の姿を堂々と写真で公表させた彼女の覚悟のほどが窺える。

ともかく、第2回ディベイトで、「ビル・クリントンは行為に及んだが、おれのはロッカールーム・トークだった」との強弁は、これらの女性らの勇気ある発言で、これまた「虚言」と判明した(後は彼がNYT相手にどれだけ本気で戦えるかだが、もし大統領選で敗れた場合にも、裁判費用を自弁する気はあったのだろうか?)。

この記事の件でトランプに電話した女性記者(記事の署名だとメガン・トゥーイ)に対して怒鳴り散らし、「反吐が出るやつだな!」と告げたが、トランプの罵言は悉く自分を棚に上げた形になるのが、ご愛嬌ではある――何ら正当な立場を踏まえていない証拠である。相手を批判できるのは、自分が絶対的に「正統な立場」を確保していての話だ。

女性を「セックス・オブジェクト」視する男性の「猥談」的視点は、端的に言って突き詰めるととどの詰まりは「美人コンテスト」に凝縮されるが、これは年来女性の重要な登竜門と見なされてきた(これは女性側からも容易に壊せないアングルで、トランプはそれにつけ込んでミス・ユニヴァース機構を買収した――前述の税の抜け穴での儲けを利用して)。美人コンテト文化の否定は男女双方にとって歴史的な難事だが、男性側の否定的な視点は、自分の娘や姉妹が「セックス・オジェクト」視されることへの反発だけに限定されてきた。これは、今後、女性側から創意が示されることが期待されるアングルである。

「創意」と言えば、アマゾネス神話がウーマンリブによってアマゾン川やカリフォルニア命名に適用された故事を、革新的な女性文化人類学者が発掘した例(前述)がある。
 とはいえ、1980年代には猛威を振るっていたウーマンリブですら、男性側の「猥談文化」(トランプの言葉では「ロッカー・ルーム・トーク」)にメスは入れかねてきた。それがジェンダー抜きで、否定され、否定が制度化されてきたのは実に20年後の21世紀以降だという。例えば、ウォルマートは約220万人もの従業員に、女性従業員の肉体に関する露骨な表現を厳禁している。口頭ですら厳禁だから、トランプが言うような(そして「実践」してのけた)性的行動は論外である。

因みに、2005年のトランプ発言で火がついたのは、性的被害をめぐる女性間でのトウ イターによる情報交換の猛烈さで、逆に女性間での猥談文化の根強さが図らずも証明された(ウーマンリブから半世紀弱を経ても、猥談文化は衰えていない!)。

トランプは事業家として成功したと自画自賛するが、今日日の事業家はこういう「猥談文化」を吹聴すれば、即刻経営陣から追い出される(トランプのシンパ、フォックス・ニュースTVの総帥、ロジャー・アイルズはセクハラで追われたではないか。しかも、彼を解任したのは、あのルパート・マードックという、一時期はトランプ以上に「放れ馬(マヴェリック)経営者」の典型だった人物である! トランプの人気TV番組「アプレンティス」では、彼が出演者のアプレンティス候補に最後で「ユア・ファイアド!」と通告するので知られているが、まさに今の彼は自らにその通告を向けるしかないのではないかと思われた。番組の親会社NBCは、これまた男臭さが売りのジャック・ウェルチ元ジェネラル・エクトリック総帥が今日のボスだが、そんな彼が自己傘下の番組は別として、「共和党の大統領候補からはトランプを下ろすべきだ」と言っていたのである。

というわけで、トランプは今回の「オクトーバー・サプライズ」は持ち応えられまいとすら言われていた(NYTのヴェテラン記者マイクル・バーバロ、パトリック・ヒーリーによる。選挙の結果がどうなったかは、読者のみなさんがご存じのとおり)。もっとも、「猥談」に対する否定の度合いが日米では雲泥の差があるとはいえ、猥談と美人コンテストの意識下での通底関係については、ウーマンリブ評論家側の先鋭な論考を筆者はまだ知らない。

第2回ディベイトを前にして痛手から血を流し続ける鮫さながらにトランプは、意気阻喪して本拠「トランプ・タワー」に逼塞しているようだった。66階の住まいと40階の執務室を右往左往するだけで、ウィスコンシンで開催の共和党の集会にすらお座敷がかからないというありさまだった。大統領選まで後31日の段階では、この始末だったのである。

娘婿ジャレッド・クシュナー、長男ドナルド・ジュニア、ニュージャージー州知事クリスティ、元ニューヨーク市長ジュリアーニら内輪の「忠臣」らに第2回ディベイトの作戦を諮られながら、トランプの逼塞ぶりはどん底だった。

第2回討論では、自打球の痛手を和らげる手段に、ヒラリーの夫の性的スキャンダルの「犠牲者」を名乗った女性らを発掘、討論前に記者会見を開く用意はできていた。さらには、そのスキャンダル軽減を狙ってクリントン夫妻がテレビ出演(1992年、有名番組「60ミニッツ」)した故事に倣うべく、トランプ夫妻が「謝罪会見」に出演する案まで出たが、立ち消えになった。

クリントン夫妻は、共和党がスキャンダル・ネタによる攻撃の初回としてでっち上げた「ジェニファ・フラワーズ事件」に対する弁明でこの番組に出た。夫は「情事」を否定、妻に不快な思いをさせたことを詫びてソツがなかった。ところが、ヒラリーは力が入りすぎて、言わずもがなの発言で味噌をつけた。自分は常に夫の脇に立つタイプの妻ではないと強調、それが普通の平凡な女性への誹謗として攻撃された。さらに弁明のつもりで、「私だってクッキー焼くのは結構上手よ」と言って、よけい女性たちを怒らせた。まだ初々しかった時期のヒラリーである。

さて、この時期のトランプの意気阻喪は深く、その証拠に、この「オクトーバー・サプライズ(OS)」の土壇場にもめげず、忠実な小人数の支持者らがタワー前に集まっていると聞くや、彼は一気にエレベーターで地階に下り、彼らの前に姿を見せた。午後5時、支持者らは狂喜、手を伸ばして彼に触った。彼は拳を突き上げ、元気を回復できた。5分ほどして引き返す彼に向かって同席していた記者が、「下馬しないのか?」と声を浴びせると、彼は「100%(しない)!」と叫んで両手を叩き、背を向けてタワー内へ消えた。

●トランプ・ダイハーズの分析――白人女性たちの場合●

さて、このトランプの忠実な支持者たちは、トランプ・タワー近くの五番街路上で通行人らと小競り合いになり、通行人の女性の1人は支持者の女性の1人に「トットとトレイラーへお帰り!」と罵っていたから、トランプ支持層の実態がある程度浮かび上がる。

「トレイラー」というのは、車輪のないキャンピング・カーを並べた簡易宿泊施設で、施設自体は「トレイラー・パーク(TP)」と呼ばれる。TPは、究極の生活困窮者が行き着く定宿で、「高卒白人」らの困窮ぶりが透けてみえてくるし、この群衆が雇われたのでなく、自発的に集まったのなら、トランプ支持層の根っこの部分の窮乏と粘りのほどが見えてくるのである。

筆者は、「トランプ・ダイハーズ(TD)」には同情を禁じえない点もあるし、なぜそこまでトランプを支持したのかについても好奇心を禁じえない。今後、彼らについての分析が多くなされるだろうが、「アメリカ的人間」の1類型として、最後に触れておきたい。

なお、「ダイハード」(単数形)は、「なかなかくたばらないやつ」くらいの意味である。ヒラリー・クリントンは彼らを「嘆かわしい手合い」と呼んで、即謝罪した。私見では、彼らは今回の大統領選でトランプに騙され続けた最大の被害者なのだ。彼らの苦境を思えば、憎むべきは彼らではなく、彼らを欺いたトランプである。

TD関連の画像では、トランプの集会に押し寄せたのが、おなじみの「高卒白人男性」とは異質の黒人聴衆の存在、彼ら以上に驚かされるのが女性聴衆が多いことである。

「高卒白人男性」として固定観念化された伝で行けば、彼女らの観念像は「高卒白人女性」となる。彼の度重なる女性蔑視発言に怒るのは、圧倒的に「大学卒白人女性」となる。「高卒白人女性」と「高卒白人男性」は、旧弊な男女交際に馴致されてきて、「高卒白人女性」にはウーマンリブ的な「女性解放」路線を「<青臭い>と見下す文化」がある。年少時代から自身の性的早熟を誇る少女文化の担い手は、実は彼女らなのだ。

大卒者は、借り物の知識を振り回すので確かに「青臭い」が、高卒者は知識は性体験その他の生の人生体験の多寡が「成人度」の決め手となるので、その点で遅れた大卒者を嘲笑いやすい。大卒者が借り物の知識を血肉化できるのは早くて中年、大半が老年と遅れるためだ。一方、高卒者は自らの足りないものには気づきにくい。

さて、2016年3月24日のCNN調査時点ですらトランプ不支持は73%、同月23日のクィニピアック調査ではトランプに「ある程度は好感」と「強く好感」を合わせての女性26%だったが、10月初旬のハフィントン・ポスト記事では、「高卒白人女性」のトランプ支持は依然支持52%、不支持40%である。

他方、「大卒白人女性」と「大卒白人男性」には反トランプが多い。むしろ、大卒の同性に対する「高卒白人女性」側の反発が根にあるかと思われるが、調査データがない。1つだけ示唆的なのは、女性の「トランプ・ダイハーズ(TD)」が「彼は誰でも受け入れる。同時に誰でも怒らせる。本物だ」というもので、これすなわち高卒TDが世間に対して自身を見ている視点とトランプが彼らに見られている視点とを、女性TDも合致させている様子が窺える。「自己サイジングアップvs世間のサイジングアップの鬩ぎ合い」では極めて不利な位置に置かれる「高卒」の場合、一般の自己サイジングアップ(SS)傾斜以上にSSへの傾斜を強いられる。

世間に対して学校での成績その他、世間から褒められる要素を武器として持てない彼らは、そういう冷たい世間に対して最も辛い形でSSを振りかざさないといけないのだ。しかし、そういう彼らに対して世間は嘲笑するだけなのである――従来は。そこへ、「自分たちから見ても大したものじゃない人間」が、合衆国大統領候補を相務めてくれているのだ。

そんなトランプが本当に合衆国大統領に当選してしまった! 「これじゃあ、世間も知れたもんじゃないか!」「もうおれたちに対して偉そうな顔するんじゃない!」。

そういう気分もあるのではないだろうか。だから高卒白人の両性において、トランプは彼らのSSの代用品に使われている面もあるのだ。つまり、彼らにとってトランプは「反射鏡」の役目を果たしていると思われる。

ワシントン州からミズーリまでUSルート14と12と32万3000マイルを8日かけてバイク走破した男(スティーヴン・ヒルトナー。おそらく白人男性)が、沿道に立てられた数千の支持看板はトランプばかりで、ヒラリー支持は5つにすぎなかったという(『ニューヨーク・タイムズ』2016年10月15日)。通過州は、ワシントン、アイダホ、モンタナ、ワイオミング、インディアナ、キャンザス、ミズーリ、大半が白人多数の「ハートランド」と呼ばれる州で、最初のヒラリー支持看板はインディアナ州ソーンタウン、掲げていたのは75歳の白人男性、生前墓にはロバの絵を彫り込んでいる根っからの民主党員。(インディアナ州は、本選挙ではトランプの圧勝であった。CNNによれば、得票率は57. 2%対37. 9%)

ネット時代の今日び、支持看板は時代遅れとはいえ、今日のアメリカ社会では浮かばれない沿道の白人らはトランプに賭ける以外に自己表現の道は閉ざされているのだ。前述の2005年の録音テープが暴かれた後でのトランプ集会には、口をきく人形にトランプの声を入れて集会に参加(ピッツバーグ近くの田舎町)した61歳の白人女性は、反ヒラリーを訴えた。この女性の反ヒラリーの動機は不明である(高卒か学卒かも不明)。ただ、同じ集会には学卒白人女性も出てきて、問題の録音テープについては、「女同士の猥談も相当なものよ」と一刀両断、トランプは演壇でビル・クリントンの猥褻行為、その相手をさせられた女性をヒラリーが切って捨てたと非難、はてはケネディ一族の猥褻行為糾弾にまで飛び火した。(ちなみに、このペンシルヴェニア州は、伝統的には圧倒的に民主党支持の強い州だったが、本選挙ではトランプが勝利している。)

こういう人々の劣等感と自尊心がどのように絡み合っているのかは、客観的な調査によって突き止めることが不可欠であるが、大統領選でこういう視角が求められること自体、異例中の異例である。逆に言えば、2016年の大統領選こそ、トランプという異色の人間の飛び入りによって彼に靡く支持層の日頃の深刻な鬱憤が炙り出された、異例の大統領選になったのかもしれない。

●不可解なトランプ支持の女性たち●

トランプに筆者が関心があるのは、主に彼が彼を支持する者たちの反射鏡になるという側面で、これらのTD女性らの本質については、諸説ある中で『ニューヨーク・ポスト(NP)』の最新調査(10月初旬時点)だと、彼女らの本質は「シキュアリティ・モム(安全保障ママ/SM)」だという。トランプの「放言」には多々反対だが、ISISへの彼の峻拒という一点で彼を支持するというのである。SMは、9/11以降、ブッシュ息子政権下で増えた。しかし、ISISへの拒絶反応は何もトランプの専売特許ではないので、NPの調査はまるで説得力がない。

筆者にとって「高卒白人女性」より分かり難いのは、「女子大生トランプ・ファン」である。その典型が「トランプ支持のベイブたち(BfT)」に拠る若い女性らで、すぐ肌脱ぎになって入れ墨を見せる(大半が女子大生)。2月に始まったツイッター送信数は10月時点で1万1000件を越える。最大の特徴は、このBfTは匿名の男性4名が、ソーシャル・メディアにドッと沸いて出た「白人女子大生」をBfTに「駆り集めた」点で、彼女らのトランプ支持は、彼が性的魅力を放ち、「自分の感情を隠さない」点にあるという。

ノース・キャロライナにある「トランプ支持の学生たち(SfT)」はBfT以上に熱烈で、その全国書記キャシディ・クックは次のように言う。「アメリカは総じていい方向へ変化を遂げてきたけど、ここから最上のものを引き出すにはトランプ支持が最適。彼は女性差別主義者なんかじゃないわ。彼が大統領になれば、万事がいいほうへ変わる」。

さらに筆者を混乱させるのは、猛烈な反トランプであるミット・ロムニーの姪ロナがトランプ支持なことだった。ミシガン共和党議長の彼女は、実母、叔母2名、実母側の女性縁者らもトランプ支持の味方につけている。理由は、トランプが事業家だというだけである。事業家なら彼女の叔父のミット・ロムニーのほうがはるかに優れていると思う筆者には、どうにも理解できないことだ。

「それでも」と言うべきか、「という次第で」と言うべきか、11月8日には何百万ものアメリカ女性がトランプに投票すると見られていたのだが、事実、そうなった。筆者から見ると、いずれも理由は他愛がないものばかりに見える。トランプの子供らができがいいこと(これはヒラリー・クリントンも認めている)、私的なレベルでのトランプと集会やメディアその他で一方的にまくしたてる彼とは「別人」で、こちらの言うことにじっくり耳を貸せる人物だということなどである。

不法移民には強硬な姿勢をとらざるをえないアリゾナ州知事ジャン・ブルワーに至っては、トランプの専用機搭乗中、彼がわざわざダイアット・コークをとってきてくれたというだけで、「紳士だ」と言う。1990年から1991年、トランプと3か月関係があった女性は、有名なパームビーチのトランプ御殿でビキニになれと言われたが、女性問題を暴いた『ニューヨーク・タイムズ』記事を彼女がフォックス・テレビで非難すると、翌日の夜トランプから感謝の電話がかかり、10分にわたって感謝されたと喜び、「彼は私的な場ではほんとうにノーマルなのよ」と主張する。

これらは、私的な交際ゆえに生じる弁護で、そういう関係抜きで彼を支持する女性らによるトランプ弁護は、彼に反対する女性ら同様、トランプが彼女らの「反射鏡」になっているようにも思われる。

8月初旬時点で、共和党支持の女性の彼への支持は13%落ち込んだ(NYT/CBSニュース調査。7月時点では、共和党支持女性の72%が彼に投票すると言っていた(前述のロムニー候補は同じ時点で同党支持女性の93%の支持率。2008年、オバマと争ったマケインは89%。2004年、ブッシュ息子は93%)。女性全体だと、クリントン支持58%、トランプ支持27%。2012年、女性は男性より1億人多く投票した(理由は、女性の長命、男性に比べて給与その他の待遇が悪いこと、状況改善には政府に頼るしなないと思い詰めていること等々)。

ロムニーは93%の共和党支持の女性票を得てもオバマに負けた。高卒白人男性&高卒白人女性の一部だけでは、本来勝てるはずがない。そのはずであった。

●トランプ・ダイハーズ――白人男性たちの場合●

トランプ支持層=「高卒白人男性」は、定説化しているし、確かにその通りだ(予備選段階の全州で、彼らのトランプ支持は他の集団を11%引き離していた)。スーパー・テューズデイの全州では、ブルーカラー白人の60%が彼を支持した。

とはいえ、予備選段階での出口調査では、6州では「大卒白人」には共和党候補ではトランプがダントツ人気だった(ポリティコ、3月3日、「トランプ支持層5つの神話」スコット・ブンド)。他の6州では2位(オクラホマだけ2位にも達しなかった。とはいえ、本選挙ではトランプはオクラハマでヒラリーを破っている)。

「高卒白人男性」のトランプ支持は、個々の政策は度外視、連邦政府への怒りだけで結集している。政治も取引だが、感情だけの集団はデマゴーグで騙すのが古来の常道であり、トランプは十二分にツボを抑えての出馬だった。トランプ支持層の86%が、「おれたちのような人間には政府のやることにこれぽっちも文句は言えない」と回答した(ランド社調査)。軽視されて怒っているのだ。トランプの変節だらけの経歴など、「高卒白人男性」らにはどうでもいいことだった。

また、予備選段階では、白人女性のトランプ支持率は少なかった(アラバマでは、男性56%に対して女性36%/ランド社調査。ちなみにアラバマも、本選挙でトランプが勝利した州である)。

とはいえ、「高卒白人男性」のトランプびいきは、極めて分かり易い背景を持っている。その典型がケンタッキーやウェスト・ヴァージニアの炭鉱労働者で、自分らが陥っている窮地をアメリカ社会に分からせるには「猛烈に目立つ誰かが要る」のである。「オバマ大統領には、パリのほうが大事なんだ、ケンタッキーのパリなんかよりもな」(ケンタッキーの炭鉱労組委員長)。(ケンタッキーもウェスト・ヴァージニアも、本選挙ではもちろんトランプ勝利である。)

この州はビル・クリントンまでは民主党支持、以後は共和党支持、これは労組=民主党路線が潰えて以後の定型パターンである。オバマ政権以降、同州の石炭産業従事者は1万8000人から6500人へと半減以上の落ち込み(さらに同政権中に6. 9%減った)。当然、トランプはこういう「隘路」ばかりに照準、戦線をかき回してきた。なお、両州ともに圧倒的な白人多数州だ(ケンタッキーは85. 1%)。失業坑夫の1人はこう言う。「トランプはおれたちを見殺しにするかもしれない、いやするだろう! それでもヒラリーよりはトランプに投票する」。この人物の絶望感の深さが伝わってくるではないか。

それでもこの記事を書いた記者ロジャー・コーイン(『ニューヨーク・タイムズ(NYT)』コラムニスト)は、このパリ(ウェスト・ヴァージニア州の「パリ」)でトランプ忌避、ヒラリー支持の男性(失業溶接工)に出会う。トランプ支持の妻に逆らって、このミッチ・ヘッジは自説に固執、妻からは「夫婦で差し引きゼロってことになるわよね」と厭味を言われる。

コーインは姓から分かるようにユダヤ系で、トランプにヒトラーの影を見ざるをえない。西海岸では最も開けたシリコン・ヴァリー地区の1つ、メンロー・パークの一流の店で白人男性から「あんた、セイフウエイに行きなさい。ここは白人の店だ」と言われたエル・サルヴァドル系の女性の例を上げ、「いかにして独裁が生まれるか」というコラムを書いている。

NYTを始め、リベラル系のメディアは懸命にトランプ潰しに打ち込んできたのは明らかで(彼の「節税」暴きはNYT、11年前の女性お触り猥談は『ワシントン・ポスト(WP)』。後者はニクスンの悪事を暴いた「ディープスロウト」の暴露情報をニクスン政権側の脅しに怯まず敢えて掲載、政権瓦解へと追い込んだ。映画『大領の陰謀』1970年)、以後、トランプは集会で過激派聴衆を煽り立てた。過激派聴衆らは、記者席を振り向いて威喝した。トランプは得意の「陰謀論」でクリントン選対とメディア側の共謀を言い立てたので、CNNとNBCは自社の報道陣に自前の護衛をつけたし、大統領警護で知られた「シークレット・サービス(SS)」も密かに警戒を強めた(SS側は記者警護に言及せず)。バーニー・サンダーズすら、メディアを「企業メディア」呼ばわりして批判をやったように、候補者らの批判は珍しくはないので、メディアへの信頼度は32%と、後述するヒラリー・クリントンへの信頼度を下回る。トランプは傘にかかってこう煽りたてる。「企業メディアの本業は、今やジャーナリズムじゃない。ロビイストや金融機関同様、政治的な特殊権益だ。諸君のためじゃなく、自社の権益だけが狙いだ」。これに和して聴衆の一部が上げる罵声は、数分は続いた。

トランプ批判で知られるジャーナリスト、エリック・エリクスンの場合、自宅にまでトランプ支持者らに押しかけられ、この4月、肺に幾つもの血栓ができて入院、8月には店で息子が「貴様の親父はトランプに反対、国を破壊しようとしている」と罵られ、心労の結果だろう、煙草を吸わない妻からも肺癌が発見された。エリクスンが夜中に執筆中、息子が寝室から下りてきて、「トランプのスキャンダルが暴かれたので、支持者らがうちへまた押しかけてくるだろうか?」と聞いた。こういう事態に置かれても、守ってくれるのは政府ではなく、隣近所と教会だという。

しかし、エリクスンには、トランプ支持者らが自分らの共同体が襲われていて、大半が無力感と孤立感を味わっちているのだと分かっている。そして、トランプの登場こそ、無頼化した共和党のせいであることを同党指導層が理解し、多様な現実に対処できる政党に脱皮することを切望すると、NYTへの記事(10月14日)を結んでいる。

彼の住まいはアトランタで、今日のこの都市は北部からの移住者でかなりリベラル化しているが、かつては黒人差別を批判した『アトランタ・コンスティテュション』主筆ラルフ・マッギルの自宅には銃弾が撃ち込まれた。

●どこまでもヒラリー有利だったのだが……●

第2回のディベイト(於、セントルイスのワシントン大学/10月29日)の2日後、11月8日の本投票を待たずに、不在者投票や郵送投票で結果が出るという記事まで出た。両候補の接戦州では、実に少なくとも40%がすでに投票ずみと、クリントン選対は見ていた。「ネヴァダ、ノース・キャロライナ、フロリダでは、11月 8日の投票日より前に決着が着く」と、選対の総指揮者、ロバート・ムックすら言っていた。トランプがフロリダで負ければ、共和党支持州割り当ての選挙人数から見て当選に不可欠な最低選挙人数270名を得られないと見られていた。(本選挙では、ネヴァダはクリントン勝利、ノース・キャロライナとフロリダはトランプ勝利である。)

トランプは第1回ディベイトでの「マニンタラプト」のハリケインに加えて、この第2回ディベイトは有権者を舞台に挙げての「タウンホール形式」だったため、自分の演壇を離れてもよかったせいか、彼は舞台を徘徊、国民健保についてスピーチするヒラリー・クリントンの背後に迫る奇怪な行動に出た。

過度な接近は、動物には危機の切迫を告げるもので、「戦うか逃げるか?」の分かれ目となる。従って人間社会でも「対人距離研究(プロクシーミクス)」という研究分野がある。その専門家によれば、トランプが彼女の背後に立ったときは、「すこぶる怖かった」と言うから、立たれたクリントンはもっと「怖かった」だろう。さらに彼は、体を前後に揺すりながら高椅子の背を握りしめる仕種も見せた(彼女が中流層への増税を図ろうとしている彼の主張を攻撃中)。

むろん、「怖い顔」はしょっちゅうで、クリントンは無表情で対したものの、親指を人差し指に押しつけ(疲労困憊の果てに朦朧としてきた意識を覚醒させるときの彼女の癖)、普段よりうつむく仕種が多く、彼女の弁舌にいつもの冴えが見えなかったのは、相手の脅迫のせいではないかと、プロクシーミクス専門家は憶測している。

というより、筆者には彼女が相手の「異常」に対して反撃に手心を加えたという気がしてならない。彼が彼女のeメイル消去を咎めたときは、彼女は笑みを浮かべ、不快げに首を振り、伏目になった――まともに反撃していないのだ。

ヒラリーは、「彼らが低劣になれば、われわれは高潔に徹する(ホエン・ゼイ・ゴー・ロウ、ユー・ゴー・ハイ)」と反撃するに止めた。これはミシェル・オバマのトランプ批判の言葉を借用してみせたのである。

さて、トランプは、全戦線にわたって鎮まる兆しがなかった。選挙運動も顧問らの言うことを聞かず、彼らが描いた脚本を無視、手前勝手に強行してあがけばあがくほど泥沼へ沈んでいくようだった(結果的には沈まずにすんだのだが)。

第2回ディベイトでのトランプのヒラリー忌避オンパレイドに閉口した視聴者参加の初老の白人男性が舞台で発言を求め、「せめて1つくらいおたがいの長所を言及し合ってみせてほしい」と言った。そのとき、ヒラリーは救われたという笑顔になって、即座にトランプの子供らを褒めあげた。子供らは全員、憮然とした顔つきだったが、父親にはほとほと閉口していたのと、自分らが「政敵」に利用されたとの不快感がない交ぜになったのだろう。ちなみに、トランプはヒラリー自身の不屈さを褒めて、彼女を「ファイター」だと称賛したが、掛け値ない称賛である一方、相手に仮託して自分自身を褒めあげたのでもあった。

ところで、NYTへの投書の1つに、「第2回ディベイトの画像ではなく、音声だけを聞くと、トランプの演説はそれほど悪質ではなかった」というのがある。つまり、それだけ彼のボディ・ラングイッジの異常さを窺わせる。もっとも、投書者は女性で、男性のボディ・ラングイッジの女性に対する脅威のほどが窺えもするのだ。

この投書者の方法は、第1回ディベイトの音声を消して画像だけ凝視させて印象を書かされた『ニューヨーク・タイムズ(NYT)』記者のやり方(前述)の正反対だった。この記者は男性だったので、トランプのボディ・ラングイッジに対するこの女性投書者ほどの恐怖心は希薄だった。いずれにしても、前述のプロクシーミクス(対人距離研究)ともども、ボデ・ラングイッジの重要さが窺える挿話ではある。

一方、第2回ディベイトでヒラリー・クリントンの反撃に鋭さがなかったという評もあったが、これもおかしな話である。彼女ほどの女傑がこの手の脅しに怯えるはずがない。こういう未熟な相手のあしらい方は百も承知で、例えばモニカ・ルインスキーとの奇妙な「情事」を引き起こした未熟な夫は数カ月、寝室から追い出し、ビルはその間、寝室前のカウチで寝るはめになった――合衆国大統領を子供を罰するかのように「お仕置き」してのけたのである。

筆者の推測だが、第2回のディベイトでは、彼女には悲しみがあったのだと思う。一例を上げれば、第1回同様、「マニンタラプト」を繰り返す相手に対して、彼女は第2回では「遮り返す」ことは稀だった。だからこそ、ミシェル・オバマの言葉、「彼らが低劣になれば、われわれは高潔に徹する」を壇上で口にしてみせたのだ。実際、たとえば、オバマと競り合った2008年の民主党予備選との雲泥の差に対する悲哀が、彼女になかったとは言えないのではあるまいか。その思いが、第2回目ディベイトでの彼女の勝利57%、民主党寄りの世論調査ですらトランプの勝利34%(CNN/ORC調査)と低めの評価に繋がったが、以上の観点から見れば、彼女は「高潔」の次元へと突き抜けたことになるのである。そして、彼女は相手に11ポイント差をつけた(NBC/WSJ調査)。9月の差は6ポイントだったのだ。そしてこの余裕は、すでにレイバー・デイ以降の集会回数にも出ていた(トランプが行った集会数32回に対して彼女は19回)。勝利以後に待っている大仕事に対して、余力を蓄えておこうとしているのではないかと思われた。(しかし結果論でいえば、これはヒラリーの油断と評される可能性もなくはなかろう。)

●ディベイトでトランプに「ナスティ・ウーマン」と言わしめる●

さてヒラリーは、2回目のディベイトの出で立ちはタキシードを思わせ、男の子のように見えた。そのキリリとした姿は、小太りの体をお気に入りのブリオーニ・スーツに包み、ふくれっ面をしたトランプの嵩張る感じをギュッと引き締める効果があった。

1回目のディベイトで彼女が纏っていた赤い上下のパンツ・スーツに次いでこれもラルフ・ローレンのデザインで、今回の黒のダブル・フェイスにクリーム色の折り返し(ショール・カラーと言う)の上着は、後頭部に鏝で引き纏めた頭髪と合わせて、彼女を非常にボーイッシュに見せた。彼女のデザイナーは、オスカル・ド・ラ・レンタが有名だが、彼が2014年に物故、それまでもデザイナーを固定化せずに来た彼女が、今回はローレンに一本化したことが話題になった。女性にとって服装は男性よりはるかに多岐にわたるせいか、逆にデザイナーを一本化する傾向はあった(ジャックリーン・ケネディが、オレグ・カッシーニに絞り込んでいたように)。

もっとも、日々決断を下さないといけない大統領にとっては、その朝、何を着るかは苛立たしい決断で、オバマは決断の回数を減らすべく、自動的に3色のスーツを回転させて着用した(拙著『オバマ――「黒人大統領」を救世主と仰いだアメリカ』明石書店)。ローレンへの一本化は、彼女なりの「決断回避」の準備だとすれば、彼女がいかほど勝利を確信していたかを窺わせるに足るエピソードかもしれない。

本稿の最後の主題(彼女の不人気の解明)に入る前に、10月19日、最後のディベイトに触れておきたい。最後の討論は、11月8日への有権者の動機づけという点では「余韻」での勝負となるので、ヒラリー陣営の戦略は、「逆手」だった。すなわち、トランプの流儀を要所で横取りして相手を窮地に追い詰める戦術をとった。

これにはトランプはうろたえ、最初はどうにか持ちこたえたものの、後半はしどろもどろになった。例えば、プーティンが自分に好意を持っているが、「この人物(ジス・パースン/ヒラリー)にはそうじゃない」と言った言葉尻を捉えて、クリントンは「それはプーティンが合衆国大統領職に自分の傀儡を就けたいからよ」と切り返した。「トランプ」は泡を食って、「傀儡じゃない。傀儡じゃない。傀儡はあんただ」とトンチンカンな返答をした。「ロシア大統領に好意を持たれていないクリントン」が、プーティンの「傀儡」になれるはずがないではないか。

こうして多くの識者はヒラリーの圧勝と評価した。「従来の民主党候補の舌鋒では最上のパフォーマンスだった。ついに彼女は、トランプを無視し、相手との鍔迫り合いでまさに打って付けの器量を発揮してみせた」(ライアン・リッザ/『ワシントン・ポスト』の「ザ・フィックス」欄。有数の辛口政治ライターの絶賛である)。「彼女は彼を打ちのめした。彼はメロメロになった」(アンドルー・サリヴァン/『ニューヨーク・マガジン』。これまた名うての老練記者の絶賛)。

すでにこの時点で、過去にトランプに狼藉を働かれたとして9名もの女性が記者会見を開いていた(その後10名に増えた)。第3回の討論会の司会者(何とあのフォックス・ニュースTVのクリス・ワリス)がそのことに触れると、「あれはクリントン選対の仕業だ」と言い逃れ、ヒラリーから「ドナルドは女性を蔑ろにすれば、自分が大きく見えると錯覚している」と刺すと、彼は「私ほど女性に敬意を抱いている者はいない」としか切り返せなかった。

先に触れたとおり、今日では「雌犬(ビッチ)」は女権運動では名誉の称号であるが,同様に「ナスティ・ウーマン(NW)」もまたもう1つの称号である。「ナスティ」は「手に負えない」という含みを持つから、相手を罵るよりも、脱帽に近い意味合いを持つ。トランプは、このNWを第3回討論で相手に対して口走った。このとき彼女は、社会保障問題を口にしていたのだが、トランプのNW発言をドンピシャリ引き出す話題とは言えないから、それまでにトランプの苛立ちが頂点に達していて、文脈抜きで唐突にこのNW発言が飛び出してきたのだと思われる。つまり、彼の狼狽のほどが窺えるのだ。

とはいえ、共和党は莫大な社会保障予算を株に回せと主張、莫大な損失を回避すべく民主党は猛反対、しかしながら2034年には既存の保障体制は行き詰まる!

それならば所得税増税で持ちこたえるかということになるが、彼女は中流層優遇路線だから現行の課税対象、年収11万8500ドルを年収25万ドルに引き上げたいのである。共和党は保障受給年齢を現行の67歳から引き上げようというのだが、彼女は反対である。

他方、トランプは高収入層への減税、国防費増額という主張。普通に考えれば収入減に対して支出増だから財政赤字は拡大することになる。その不備を彼女に突かれてポロリとこぼれ出てきたのが、NWだった。

NWには歴史がある。「手に負えないほど口達者で、戦闘能力でも男顔負け」の女性像を最初に想定したのはさすがに古代ギリシャ人男性で、アマゾネスという奇怪な女性戦士像を生み出した。近くは故ミッテラン仏大統領が、サッチャーをこう罵った。彼女は「唇はマリリン・モンローだが、目はカリギュラだ」。これはまさにNWに相当する。ミッテランは長らく愛人との家庭を隠してきた――フランス人は各分野にわたってこういう融通派が多く(オランド大統領も同様)、それが「伊達」と見られる風土だったが、ウーマンリブ以降、この洒脱さの慣習は劣勢に回った。

NWと罵って「脱帽」しないで男の面子を保つ手は極めて単純で、相手の容貌に触れて黙らせる手を使う。「あなたは頭がいい。しかし、それ以上にきれいですよ」(イタリアの当時の首相ベルルスコーニが、野党党首ロージー・ビンディにそう言った)。ビンディは美貌ではないし、そういう価値観を撥ねつけて政治に邁進してきた。当然、野暮な男性らはNWと罵る前に、もろに相手の美醜を、いや醜悪さを罵る。あるいは子供を生まないことを難じる(近年ではオーストラリアの前首相ジュリア・ギリアドが、男性議員から「自分の意図で子供を生まない者は、人生の何たるかをまるで理解できない」と言われた)。

なお、この議員は、「子供を生まない」という意味で「バラン」という形容詞を使った。土地が「不毛」とか、作物が「実を結ばない」、動物が「子を生まない」という生物的な意味で、主に動植物の不毛性を意味する。これが人間の女性に使われる背景は、おそらく第二次女権運動では否定されている視点かと思われる。政治家にしては無神経のそしりを免れまい。

しかしながら、ヒラリー・クリントンの不人気には、あれだけの才幹、しかしちゃっかり子供も生み(祖母にまでなり)、「愛らしさ」まで備えている(と筆者は思う)――この完璧さへの一部の女性の不公平感も混じっているとしか思えない。

とはいえ、いつまでも「愛らしさ」が女性の重要な尺度にされることに対する反発は、2008年、彼女がオバマから「あなたは十分愛らしい(ライカブル・イナフ)」と言われたとき、一部の女性が怒ったことで明らかだ。あのオバマですら、女性側の屈折は理解の外だったわけである(彼の妻ミシェルは、彼より早くシカゴの有名弁護士事務所の花形で、その掌中の玉を彼が結婚で奪うことを事務所側は怒った)。

もっともトランプにはそういう機微ははじめから問題外で、ミシェルについては「あのでかい尻を見ろよ」という極めて低劣な次元に女性の魅力を還元して恥じることがなかったが。

●ヒラリー・クリントン人気凋落の文化的隘路●

まず、ビル・クリントンはベビー・ブーム世代(1946年-1965年生まれの7500万人)最初の大統領、そしてヒラリー・クリントンはこの世代最後の大統領となると言われた。アメリカ史におけるこの意味合いは後述するとして、まずなぜ彼女の人気がこうも誤解されているかについて触れたい。

2004年、共和党の大統領選候補指名大会が、マディスン・スクエア・ガーデンで開かれている時期、筆者が北のニューヘイヴンにあるイエイルの学生新聞の女性記者にヒラリー・クリントンのことを聞くと、意外に冷淡だった。その年の民主党候補は、ジョン・F・ケリー(現国務長官)で、ヒラリーはそれから4年後に出馬、オバマに敗れる。

冷淡のありようは、「何も女性候補はヒラリーだけじゃないわ」というものだった。「すぐに後継世代が登場する」という意味だった。

これは安易な空頼みともいうべきもので、たとえばケネディ大統領が暗殺された後、アイルランド系カトリックの大統領は半世紀たっても未だに登場していない。そうそう大統領選の厄介至極な関門を潜り抜けられるものではないのだ。女性大統領候補も、ヒラリーにとって代われる逸材は未だに見当たらない。

2004年初夏、ニューヨーク都心では反ブッシュ・デモが繰り広げられ、30~40代の女性はヒラリーへの期待を隠さなかった(このときの様子は、拙著『アメリカン・エスタブリッシュメント』NTT出版。今や彼女らは初老を過ぎている)。

ヒラリー・クリントンの不評の分析がここでの課題だが、2016年、一斉にヒラリーを捨ててバーニー・サンダーズに走った若者らは、例のイエイルの女性学生記者の姪や甥かもしれない(あれから12年、かつての女性学生記者自身も今や中年である)。

元イエイル学生新聞の女性記者と、ニューヨーク都心でヒラリーへの期待を熱く語った当時の中年女性との違いは、1980年代の熾烈なウーマンリブの体験の有無にかかっている。後者の中には、ヒラリーが出馬さえしていなかった2004年、じっとしていられなくて、住んでいるアイルランドから馳せ戻ってきたという女性も1人いた。

要するに、ヒラリー・クリントンを支持するのは、今日の若者らの叔母や叔父の世代(イエイル女性記者)よりも年配者で、若い連中はクリントン支持は「クールじゃない」というのである。そんな彼らは民主党の予備選挙では、バーニー・サンダーズを一斉に支持した。

「クールじゃない」説の根拠となる挿話を1つだけ上げる。ヒラリーにとって有り難いのは、共和党候補(トランプ)が自分以上に評判が悪いことだが、7月のフロリダでのある世論調査で信頼度では彼女はトランプに2桁の差をつけられた(本選挙では、フロリダはもちろんトランプの勝利)。

一方、これまたトランプには外せないペンシルヴェニア州での話だが(そして実際にこの州では本選挙でトランプが勝利したが)、ここのフィラデルフィアの市役所ホールで開かれたクリントン支持の全米代議員会議に出る途中、フロリダからの代議員らにバーバラ・ケイディがこう告げた。「うちの息子は大学2年生だけど、こう言うのよ。『仲間でヒラリー支持は1人もいないよ、ママ』。『どうして?』って聞いても、彼は『分かんない』としか言わないのよ」。当惑した母親はこう言い足した。「息子は政治学専攻なんだけどね」。

若者らの間にヒラリー支持は「クールじゃない」という麻疹を猖獗させた元凶の1人が、筆者が2004年に会った例のイエイルの学生新聞の女性記者及び彼女の同世代だったという気がしてならないのだ。

彼女の世代は、ビル・クリントンが政権を維持していた1990年代は高校時代で、NFTAや福祉政策の見直しなど、元来、自前の政策を横取りされた共和党は、彼のスキャンダルで攻め抜く以外にお手上げとなった。

学生女性記者の世代は、この光景を見せつけられたばかりか、夫を守るべく共和党側の攻撃を「膨大な右翼の陰謀」と断定、針鼠のようの身構えたヒラリー・クリントンの姿に違和感を抱いた。

「膨大な右翼の陰謀」の先兵は、「ラザファド・インスティテュート」という右翼弁護士集団だったが、モニカ・ルインスキー事件でクリントンを弾劾にまで追い詰めた特別検察官ケネス・スターも、共和党の「走狗」の1人だった。以上が図らずも証明されたのは、先兵の1人、デイヴィッド・ブロックが突如「転向」、「陰謀」を内側から暴いたばかりか(邦訳、『ネオコンの陰謀――アメリカ右翼のメディア操作』朝日新聞社)、ヒラリー・クリントンの庇護を受け、「陰謀」と戦う戦士に変貌した皮肉な結末によってだった。

●『スパイ』の表紙に描かれた「女怪」としてのヒラリー●

ところが、イエイルの女子学生記者の世代は、頑強にヒラリー否定へと突っ走った。この心理は、今後着実な調査によって解明されないといけないが、かなり先の話になるだろう。ここでは、幾つかの傍証を上げるに止める。

『スパイ』という雑誌の1995年の号の表紙に、黒い旧式なドレスを着たヒラリーのスカートが風でめくれ上がり、彼女のパンティが丸見えの合成写真が使われた。マリリン・モンローの白い薄布のスカートが地下鉄の送風口からの風でめくれ上がるのを懸命に押さえ込む姿が評判の映画『七年目の浮気』(1955年)を模した設定だが、問題はヒラリーの股間がもっこり膨らんでいることだ。出で立ちもドレスは19世紀的な分厚く重い生地で、モンローの薄く軽い素材が風に吹き上げられるダイナミズムとは異質なゴシック調を思わせる。そう、彼女は「女装した男」として描かれているのである。しかも、モンローが顔を顰めてスカートを必死で押さえ込むのに対して、ヒラリーは薄笑いを浮かべて悠然と露出を隠そうともしていない。しかも表紙には、「ヒラリーの大秘密」という文字が走っている。

誰がこの表紙を思いついたのか? 筆者には分からないが、男性ならば、話は単純明快、女性ならば極めて複雑な背景を想定しないといけなくなる。

とはいえ、この表紙はヒラリー・クリントンに対する反発の核心を典型的な形で形象化していると思われる。彼女の正体が吸血鬼や魔女だとするよりも、不気味な蟠りだと言える。右翼は角を生やした幽鬼としてヒラリーを描いたが、『スパイ』の表紙こそ、今回の大統領選で首を傾げさせた彼女の不人気の根源を突いていると思われるのだが、いかが? しかも、この表紙の描き方は、1995年から始まっていたとすれば、禍根は実に深くかつ縦横に延びていることになる(別に2016年の大統領選で突如起きてきた話ではないのである)。

筆者がこの表紙のことを知ったのは、スーザン・ファルーディの「ヒラリー・クリントンがいかにして悪魔と会いまみえたか?」(『ニューヨーク・タイムズ』2016年10月29日付)という記事においてだったが、ファルーディが名著『バックラッシュ』の著者だっことは、反ヒラリー熱の根深さを分からせてくれた。なにしろ、この本は1990年代に澎湃として沸き起こってきたウーマンリブへの反発を描いたもので、「反発」には女性側主導のものが目立った。バックラッシュとは「引き波」を意味し、ウーマンリブを「悪」と決めつける風潮を指し、ファルーディによれば、一九九二年、夫ビルが共和党不敗の神話を打ち砕いたとき、彼の妻に女性としての「悪」を代表させる動きが確定したというのである。

ビルの幼友達で、彼女とリトルロックの弁護士事務所の同僚だったヴィンス・フォスターが首席補佐官として田舎のアーカンソーから生き馬の目を抜く首都での仕事に苦悩、自殺したとき、ヒラリーが彼を殺したとの陰謀論が共和党陣営を駆けめぐった。彼との浮気が露顕することを恐れて犯行に及んだというのである。

トランプも陰謀論一点張りだが、これはニクスンによって劣化された共和党では陰謀論への制動装置の箍がすっかり外れてしまった結果だ。この陰謀論は、有能な女性を抹殺しようとする点では女性差別の原型で、ヒラリーは3つの頭を持つ地獄の番犬ケルベロスに準えられた。本論で触れてきた「トランプ・ダイハーズ」、「高卒白人男性」こそ、トランプとともに共和党側のケルベロスなのだ。

ヒラリーの誹謗はファーストレディ時代の90年代に確固不動の域まで行きつき、連邦上院議員、国務長官、大統領選候補時代、新たなヴェクトルに到達した。

大統領選の結果が出る前に、選挙運動や討論会のまっただ中で現在進行形で書いた拙稿を、2017年3月23日に読み返して、筆者は、改めて今回の現職大統領が選出された異常さが浮き彫りになったと思う。この「異常さ」は、すでにアメリカ、いや世界中の歴史家らが今、懸命に掘り下げつつあるだろう。

ともかく、トランプという人物をホワイトハウスに送り込んだのは、紛れもなくアメリカ国民自身である。そもそも彼らに何が起きていたのか? 筆者はこれからも掘りさげていくつもりである。


(トランプ特別編・了。次回はアメリカ社会に生きる日系人、彼らもまたアメリカ的人間なのだ! 「日本人から生まれたアメリカ的人間」をお届けします。)

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越智道雄 (おち・みちお)

1936年、愛媛県生まれ。明治大学名誉教授。英語圏の文化研究の専門家であり、とりわけアメリカ文化・社会の研究で名高い。著書は、『<終末思想>はなぜ生まれてくるのか』(大和書房)、『ワスプ(WASP)』(中公新書)、『ブッシュ家とケネディ家』(朝日選書)、『さらば愛と憎しみのアメリカーー真珠湾攻撃からトランプ大統領まで』(田原総一朗氏との対談。キネマ旬報社)、『ヒラリー・クリントン――運命の大統領』(朝日新書)など多数。また翻訳書も多数あり、ザヴィア・ハーバート『かわいそうな日本の私』(1-11、サイマル出版会)で日本翻訳出版文化賞、ローズマリー・ハリス『遠い日の歌が聞こえる』(冨山房)で産経児童出版文化賞を受賞している。

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