「子どもがほしい!」で浮上する、錯綜ぎみの実情

第五回

野田聖子議員の「妊娠」

 多くの女性が不妊で悩んでいる。

 医学では不妊は疾患とされ、不妊症の定義は、「健康な男女が子供を望んで性行為を行っているにもかかわらず、2年以上子供ができない」状態で、夫婦10組に1組の割合で不妊症だという。

 民主党は、「不妊治療について医療保険の適用を検討し、支援を拡充する」とし、また、厚労省が昨年発表した来年度予算の概算要求では、「不妊治療等への支援」の予算も盛り込まれている。

 そんな中、自民党の野田聖子衆院議員が今年8月、「不妊治療によって49歳で妊娠した」と発表した。
 事実婚の夫の精子とアメリカのクリニックから提供された卵子による体外受精を行い、その受精卵を自身の子宮にうつし、妊娠したという。
 出産予定は来年2月で、50歳の出産になるという。

 野田は、民主党の鶴保庸介参院議員と40歳で事実婚し、そのときにも14回の不妊治療に取り組み1度は妊娠したが流産し、2006年に46歳で離婚。その経緯を著書『私は、産みたい』(新潮社刊)で語っている。
 2008年に飲食店を経営する7歳下の男性と都内の自宅で同居し、事実婚状態である。

 妊娠のニュースは賛否両論を持って迎えられた。
 ちなみに私は『週刊新潮』で発表された本人の手記「それでも私は産みたい」(2010年9月2日)を読んで、彼女の姿勢にはあまり賛成できないと感じた。
 その理由は以下である。

 (1)手記の中で、「私は保守自民党の国会議員です。保守政治の基盤は家族の絆にあると考えます。これまで、保守政治家としての私には家族の要素が希薄でした。確かに一度結婚しましたが一緒に暮らした期間も短く、家族という感覚はあまり持てませんでした。家族を実感できてこなかったことは、保守政治家として不完全ではないかの感覚が拭えなかった。(中略)この新しい『夫』とともに子どもを持ち、家庭を築こう。そうできれば、個人としても、保守政治家としても幸せなことだと考えたんです」と語っている。

 このように「子どもがいてこそ家庭である」という保守政治家としての「姿勢」を表明する一方で野田は、自民党議員の多くが反対する夫婦別姓に対しては推進論者であり、別姓法案が成立してから婚姻届を出すという。
 「保守政治家として」といいながら、結婚や家族観がブレまくっていて、いいわけがましいと感じる。

 (2)国会議員は立法府に所属している。日本では、代理出産や卵子精子提供による不妊治療に関して法整備が進んでいない状態なのに、国会議員がグレーゾーンの治療を受けることへの疑問がある。

 (3)「50歳でも出産できる」ということを喧伝することで、すでに妊娠出産ができないことに折り合いをつけた女性たちが、周囲から「まだがんばれる」とプレッシャーをかけられてしまう(かけられたと感じてしまう)可能性がある。

 とはいえ、日本での不妊治療についてさらに議論されることは重要なことである。

養子問題

 不妊治療以外に養子という選択肢もあると思うだろう。

 ところが前述の野田聖子の手記では、「現在の日本は、養子を育てる親に関する基準が、事実上、養子を斡旋する民間団体等の『裁量』に委ねられています。実際、そうした団体を訪ねましたが、子どもの養育、将来的な福祉を考えた場合に、高齢の親では子どもが可哀想だから、50歳近い私を親にするわけにはいかないと言われました。同様の理由から共働きはダメ、女性が働いていてはダメとも。つまり、今の私は『親になる資格』がないわけです」と語っている。

 日本の養子問題の実情はどうなっているのだろうか。
 まず、養子縁組制度と里親制度をみてみたい。

 養子については、日本では特別養子縁組と普通養子縁組の2種類がある。
 特別養子縁組は、「養子縁組において、養子と実方の父母および血族との親族関係を法律上終了させる縁組。原則として六歳未満の子について、子の利益のために特に必要があると認められる場合など一定の要件の下に、家庭裁判所の審判により成立する。民法改正により 1988 年(昭和 63)から認められた」

 普通養子縁組は、「特別養子縁組に対して、通常の養子縁組。養子となっても実の親との親子関係は残り、二重の親子関係となる」(大辞林より)。

 特別養子縁組は民法に新しく加わった制度(1987年に新設)で、この制度によって、養子を実子扱いすることができるようになった。

 一方の里親制度は児童福祉法の管轄で、そもそもは戦後焼け出された戦争孤児への対策としてはじまった。
 養子ではなく、同居人という扱いになり、親権は実の親にあるが、経済的な理由や、虐待などの理由で養育を受けられない子どもをあずかる制度だ。

 里親には、養育里親(何らかの事情により、保護者のいない、または保護者に監護させることが適当でない子どもを養育する)、専門里親(虐待など、専門的な援助を必要とする子どもを養育する)、親族里親(祖父母、おじおばなど三親等以内の親族が子どもを養育する)がある。
 養育里親や専門里親には、里親手当てなど措置費が支給されることもある。

 野田聖子の手記のように、養子は斡旋団体に登録することが多い。
 斡旋団体には、児童相談所などの公的機関と民間団体がある。
これら団体の条件には、(1)夫婦の年齢(とくに母親)、(2)部屋の広さ、(3)育児に専念する大人がいる(夫婦の親でもかまわない)などが含まれ、野田の手記はおおむね正しい。

 条件が厳しいだけでなく、養子縁組の希望者数が多いのに、養子を紹介してもらえることは少なく、また紹介されてることになっても時間がかかるともいい、非常に困難な制度になっている。

 海外では、ハリウッドスターがたくさんの養子を持っているのがニュースになるように(養子を巡る様々な問題のあるマドンナなどもいるが)、日本ほど養子制度のハードルが高い国は少ない。

 不妊に悩む親がいる一方で、日本では避妊を体外射精(これは避妊ではないのだが)、やコンドームに頼ることが多いために(アメリカやフランスでは避妊確実度の高いピルが多い)、望まぬ妊娠も多く、結果的に中絶も多いのだ。

 養子というシステムがもっと整えば、望まぬ妊娠による子どもたちの将来の不安を少しでも減らす受け皿にもなり得るのではないだろうか。

 日本では、「赤ちゃんポスト」(「こうのとりのゆりかご」という名前で熊本県慈恵病院に設置されている)についても批判が多いが、選択肢としてあってもいいだろう。

何を持って「実子」とするか

 養子縁組が難しいだけでない。「実子を持ちたい」という気持ちも、不妊治療に向かう動機ではあるが、「実子とは何か」という問題もまたある。

 「実子」とは血縁のある子どもである、と思う人が多いが、不妊治療とは、必ずしも「血縁のある実子」を約束するものではない。
 人工授精や体外受精では、夫の精子を使う(AIH=Artificial Insemination by Husband、配偶者間人工授精)だけではなく、提供者(ドナー)の精子を使う(AID=Artificial Insemination by Donor、非配偶者間人工授精)もあり、後者では父親との血縁はなくなってくる。

 さらに野田の手記のように、卵子をドナーに提供してもらうパターンでは母親との血縁はなくなる。

 かつて話題になった格闘家の高田延彦とタレント向井亜紀(がんのため子宮全摘していた)は、夫の精子と妻の卵子を受精させアメリカで代理母に出産してもらった。
 この場合は、両親ともに血縁はあるが、日本では代理出産についても法整備が進んでおらず「出産した母親が母親である」という認定になる。
 高田・向井夫妻も最高裁まで戦ったが、「立法による速やかな対応が強く望まれる」とされながらも、実子としての出生届は受理されず、養子縁組の形をとっている。

 最近では、娘夫婦の子どもを、娘の母(子どもから見れば祖母)が出産するというニュースもあった。これももちろん法整備はされていない。

 野田のようにドナーの卵子でも、自分で出産すれば、実子としての出生届は認められるわけだ。

 不妊治療では、以下のケースが考えられることになる。

 父の精子×母の卵子×母の出産
 父の精子×母の卵子×代理母の出産
 父の精子×ドナーの卵子×母の出産
 父の精子×ドナーの卵子×代理母の出産
 ドナーの精子×母の卵子×母の出産
 ドナーの精子×母の卵子×代理母の出産

 父親と血縁がないケース、母親と血縁がないケース、出生者が母親ないケースなど、さまざまなケースの子どもたちが生まれている。

 今までは婚姻中に生まれた子ども=嫡出子が実子であるとされた。
 しかし今では、DNA鑑定がかんたんにできる時代になり、「DNA実子」特定はできるのだ。

 そういった中で、ドナーの精子で生まれた(AID)子どもたちが現在「父親を知る権利」を訴えている。
 日本では匿名でドナーの精子が提供されているために、父親を知ることができないのだ。
 「生みたい親」の気持ちだけではなく、「生まれた子ども」の気持ちも重要なのは、当たり前のことだろう。

 実子とは何か、養子ではいけないのか、不妊治療はどこまで認められるのか、そして子どもたちの気持ち、これらを考えることが、結婚や家族を考える中でますます、問題になってくる。

 
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深澤真紀(ふかさわ・まき)

1967年東京生まれ。コラムニスト・編集者。企画会社タクト・プランニング代表取締役社長。編集者をつとめた後、独立。若者、女性、食、旅など、様々なテーマの企画や執筆、講演を手がける。2006年に名付けた「草食男子」は、2009年流行語大賞トップテンに。著書は、『女はオキテでできている』(春秋社)、『考えすぎない生き方』(中経出版)、『自分をすり減らさないための人間関係メンテナンス術』『草食男子世代――平成男子図鑑』(いずれも光文社)など。

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