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大切なのは、いつもの行動を無意識の動きにしないこと。
誰でも、今この瞬間に起こっている事とのつながりが薄くなると、倦怠感が生まれ成果が出なくなってしまいます。
練習熱心な彼女は、毎日30分のトレーニングを「退屈せずに」続けられるよう、音楽を聴きながら走っていました。しかしこの場合、彼女がトレーニングによって享受できたのは、ほとんど5分間分の成果でしかなかったのです。数ヶ月後、彼女の身体能力はほとんど伸びていないことが分かりました。この問題を解決するためには、走るときには携帯音楽プレイヤーを置いて、30分が30分であると感じられるようにしなくてはなりません。それができたとき、彼女の能力は確実に伸びはじめました。
レースの途中で誰かに追い越されたとき。私たちはとっさに力んで、どうにかして追いつこうとするものですね。ランナーを挑発してくるこうした刺激に対して、とっさにしてしまう反応を、一瞬、抑制することで、たくさんの可能性が開けてきます。
ある中距離ランナーに、友人がアドバイスをしました。「行きたい(=ペースを上げたい)と最初に感じたときには、行ってはだめだ。行きたいと2度目に感じたとき、まだ行っちゃだめだ! 行きたいと3度目に感じたとき、もしまだ力が残っていたら行け!」ペースを上げたいという本能を抑制し、体力まかせでなく、頭脳を使ってギアを調整しながら走った彼は、目標より5分も早いタイムでゴールすることができました。
ムダな緊張とは、たとえばペンを握るときに、まるで斧を使うときのような強さで握ってしまうというような、その仕事が求めている以上の労力で筋肉を使って行動することです。
アレクサンダー・テクニークによるノン・ドゥーイング(=何もしない)とは、何かを「する」ことよりも、いかに「ムダなことをしない」かを考えるアプローチです。筋肉のムダな緊張をなくし、本当に必要なときに100%の力を発揮できるようにすること。全身(心身の総体)のコーディネーション(協調性)を最も良い状態にしておくこと。無理・ムダなしに動くための、基本的なスキルです。
現代人は、「結果を出す」ことを何よりも求められています。しかし、本当に良い結果を出そうと思ったら、結果だけにとらわれてしまうエンド・ゲイニングは、捨てなければなりません。矛盾しているように聞こえますが、これがアレクサンダー・テクニークの最大のポイントです。結果ではなく、結果をめざす途中の過程(プロセス)や手段にできるだけ注意をはらい、無理・ムダなく、自分の心身を上手に使って、納得のいく結果を得るようにすることが大切です。(考えてみれば結果にとらわれず楽しみながらした仕事はたいがい成功しましたね。)
さっさとトレーニングを終えて、次の予定に向かおうと大忙しの人がたくさんいるからです。集まっている人がみな、内的な満足を求め、安全かつ効率的なトレーニングに挑戦しているわけではなくて、見栄えを良くして恋人を喜ばせようとか、医師に注意されて仕方なくといった、外的な動機がメインになっているからです。トレーニングをこなすスピードや無頓着な態度から、楽しんでやっているわけではないのが一目瞭然です。
レースとなると、エンド・ゲイニングはほとんど至るところで見られます。スピードにこだわれば、フォームが犠牲になり、「ブレーキがかかった走り」になります。
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足:どこから着地するか(本文99頁より)…かかとで着地する場合の問題点は、足の最初の接地点が、身体より前になることだ。 |

フレデリック・マサイアス・アレクサンダー(1869〜1955)は、戯曲の朗読やひとり芝居を専門にする俳優だった。しかし、多くのランナーやジムの会員、スポーツ選手と共通する思いが、彼のエピソードにも登場する。「もっと上手くできるはずなのに、どうしてできないのだろう? 自分が持っている能力をどのように引き出せばよいかわからない」。アレクサンダーは芝居や朗読に夢中だったのだが、能力を最大限に発揮するパフォーマンスができないと悩んでいた。ステージにあがると声がかすれてしまうため、演技を短く切り上げなければならないこともあった。
これは才能うんぬんの問題ではないし、笑い話でごまかすことでもなかった。アレクサンダーが取った行動は、私たちが同じ状況におかれたらきっとそうするだろうというものだった。医療の専門家たちにアドバイスを求めたのだ。どれもたいして役には立たなかったが、ひとつだけ、休息をとるという提案は効き目があった。しかし、改めてやってみたとたんに、しゃがれ声が再発したのである。
けっきょくアレクサンダーは、自分自身でこの問題に取り組むほかないと悟った。喉のトラブルには自分の発声法が関係しているのではと推測したのだ。
何が起こっているかを把握するため、アレクサンダーは鏡を用意し、話している自分自身の姿を観察した。するとさっそく、調べてみる価値がありそうなクセがいくつか見えてきた。まず、発声するときに、喉と呼吸、首の緊張が強くなる。さらに観察してみると、こういった傾向への変化は話しているときだけでなく、話そうと〈考えた〉瞬間からすでに起こっていることがわかった。
「鏡の中の私は、せりふを言い始めるとすぐに、頭を後ろに引いて喉頭を圧迫し、あえぐような音を立てながら口から息を吸い込んでいた」と、彼はのちに書き記している。自分が抱えている問題は、単純に身体的なものだけではなく、身体的・精神的・感情的なものが関わりあっているものだということを彼は知った。言い換えれば、彼の存在そのもののすべての要素が関わっているということだ。
アレクサンダーは、緊張を解く方法を模索しはじめた。いろいろな実験の結果、頭と首、そして背中には、緊密な相互関係があることを彼は発見し、これをプライマリー・コントロール(Primary control of use)と名づけた。この相互関係に障害が発生すると、声だけでなく身体全体の機能に、間接的に影響があることがわかった。
さらに、「何をどのように考えたか」と、「実際の行動」とのあいだには、重要な関係があることもわかってきた。たとえば鏡の中の自分を正そうとして、頭を「より良い位置」にもっていっても、少しの間しか持続しない。確実で効果が持続するような変化を獲得するには、なによりもまず、誤った反応を起こさないようにするのが肝心だ、とアレクサンダーは悟った。このスキルを身につけることで、アレクサンダーは声のトラブルなしで演技できるようになっただけでなく、全身の健康状態が改善されたのを感じることとなった。
舞台の仕事に戻ったアレクサンダーは、自分と同じような問題に悩む役者仲間に出会った。アドバイスを与え、ハンズ・オンの技法を使ったレッスンをすると、彼らの症状も改善された。1904年にロンドンに移り住んだアレクサンダーは、独自のテクニークを発展させていった。自由で自然な方法で身体を機能させるのを目的に、あらゆる動作に私たちが加えてしまっている不必要な緊張に気づき、それを防ぐテクニークだ。
のちにアレクサンダー・テクニークとして知られるようになるこのスキルを、ヘンリー・アーヴィング、リリー・ラングトリー、ハーバート・ビアボーム・トリーなど多くの俳優たちが学んだ。アレクサンダーが次々と迎え入れる生徒――彼はけっして患者とは呼ばなかった――のなかには、オルダス・ハクスリー、エイドリアン・ボールト、ジョージ・バーナード・ショーなどが名を連ねている。この3人のなかでもバーナード・ショーは、80歳になってからレッスンをはじめた。ジョン・クリーズ、ポール・ニューマン、マギー・スミス、ポール・マッカートニー、デイリー・トンプソン、リンフォード・クリスティ、ジョン・マッケンローなどは、比較的近年の、アレクサンダー・テクニークの生徒たちである。また、このテクニークは、英国王立演劇学校や、サンフランシスコのアメリカ・コンサバトリー・シアターといった学校のカリキュラムにも取り入れられている。
アレクサンダーはアスリートでもなければ、フィットネスのマニアでもなかった。それでも、今日的に表現すれば、彼は最上のパーソナル・トレーナーであると言える。彼の関心は「自分自身をどう使うか」だった。――これがこのテクニークの核となる概念であり、昨今のさまざまなメソッドのなかでも特に、私たちの行動のすべてで、心と身体が調和したひとつの統合体として動くことを重要視している。
1932年にノーベル生理学・医学賞を受賞したサー・チャールズ・シェリントンの言葉を借りてみよう。「生きることは舞台に上がるようなものだ。調子が良かったり悪かったり、喜劇だったり笑劇だったり悲劇だったり……自己(セルフ)というドラマティックな登場人物の人生ドラマが日々展開している。最後に幕が下りる日まで、ドラマはつづく。自己とはひとつの統合体なのだ」。
これは、人間の健康や幸せといったことに普遍的に通ずる考えである。しかしアレクサンダーはそんなたいそうな志からはじめたのではなく、これまで見てきたように、単に舞台の上で声がかれないような発声法を見つけたかっただけなのだ。
ランナーにとっても、アレクサンダーが具体的に示した心身の使い方は、身体を改善したいとか維持したいと思う人にはひじょうに有効である。「身体の状態が良い」とは、体重がどのくらいかとか、何分走りつづけられるとか、上腕二頭筋がどれだけあるとか、ベンチプレスのバーに錘をどれだけつけられるとか、そんなことではかられるものではない。「どのように自分自身を使うか」によって、自分がどのように機能するかが変わってくる。たとえば、姿勢を直すために定期的にジムに通って運動をしているとする。しかしそれ以外の時間は1日中コンピュータとテレビの前に座りこんでいる。こうした行動のどちらが自分の能力により大きな影響力を持つだろう? さらに突きつめて考えてみると、座りこむクセが、改善しようとしておこなっているすべてのエクササイズに浸透してしまっているとしたら、いったいどれだけの効果を期待できるだろうか?
アレクサンダーは、俳優としてのキャリアをおびやかす自分自身のクセ、すっかり定着してしまった心身機能の習慣を変容させる方法を求めて、膨大な時間を費やして自分を観察しつづけた。そのこと自体が、即座に直接的なやりかたで悪習慣に打ち勝とうとしても効果がないということを証明している。「やりたくないこと」にかぎって、やめられないものなのだ! 下手な身体の使い方をそのままにいくらエクササイズをしても、すでにひどいものはますますひどくなり、自分で自分の首を絞める結果になる。けっきょくは、日々おこなっていることが、あなた自身を作っているのだ。身体の機能のしかたを変えたいのなら、まずは自分自身の使い方を修正する。その逆では意味がないということを肝に銘じよう!
(『ランニングを極める アレクサンダー・テクニークで走りの感性をみがく』本文42頁〜46頁より)
カナダ、モントリオール出身。アレクサンダー・テクニーク教師。ポーズ・メソッドの指導者、レベル4コーチ。コンコーディア大学(アメリカ、オレゴン州ポートランド)陸上競技チーム前監督。アレクサンダー・テクニークを生かした独自のランニング・メソッドを教えるThe Art of Running を主宰、欧米各地でワークショップをおこなっている。
The Art of Running : http://www.theartofrunning.com
ロンドン・アクティヴ・パートナーシップ(サウスバンク大学)コーチ。ロンドンの「タイムアウトマガジン」のスポーツおよび健康欄の編集者としても活躍
日本陸上短距離界のパイオニア。2008年北京オリンピック陸上男子400mリレー銅メダリスト。日本人として初めて100m10秒0台を記録し、日本記録を3回更新した。1996年のアトランタ・オリンピック以降、五輪4大会に連続して出場。五輪と世界選手権を合わせて100mで計5回準決勝に進出している(いずれもアジア人で唯一)。2008年4月には35歳で10秒17という驚異的な記録を打ち立てた。同年秋に引退。大阪ガス(株)陸上部コーチ。
声楽家、アレクサンダー・テクニーク教師。大阪音楽大学卒業後、欧米各国で学ぶうちにアレクサンダー・テクニークに出会う。1991年にアマック・コーポレーションを設立、音楽家のための研究・演奏の場を主宰するかたわら、93年より日本人初のSTAT(アレクサンダー・テクニーク指導者協会)公認教師として活動を始める。
コナブルのボディ・マッピングを教えるアンドーヴァー・エデュケーターズ日本代表としても活動している。
アマック・コーポレーション : http://www.amac.co.jp
著書『アレクサンダー・テクニーク』(春秋社)
共訳『音楽家のためのアレクサンダー・テクニーク入門』(春秋社)他
アレクサンダー・テクニーク やりたいことを実現できる〈自分〉になる10のレッスン小野ひとみ 著 四六変 ● 208頁 発行日:2007年8月 ISBN:978-4-393-93502-6 税込定価:1,680円 思いのままに動く〈心身〉を目指して音楽家、アスリート、演劇人、ビジネスマン……すべての領域の表現者 (パフォーマー)へ贈る、心身コントロール法入門。 アレクサンダー・テクニークとは、オーストラリアの演劇人、F.M.アレクサンダーが開発した、一種の心身コントロール法。惰性的な習慣や、身体についての間違った思いこみによって自然に逆らった身体の誤用(ミス・ユース)をしていることに気づき、本来の心身の力を取り戻すことを目指す。 ☆鴻上尚史氏による序文、小野ひとみ氏との対談を収録。 |
音楽家のためのアレクサンダー・テクニーク入門P.デ・アルカンタラ 著 小野ひとみ 監訳 今田匡彦 訳 A5 ● 448頁 発行日:2009年4月 ISBN:978-4-393-93495-1 税込定価:2,940円 基本原則から毎日の実践法まで―― 著者はチェリストであり、ベテランのアレクサンダー・テクニーク公認教師です。 これまでのどの本よりも具体的で、テクニークの真髄がつかみやすい決定版。演奏家にかぎらず、すべての分野のパフォーマー(表現者)にお勧めしたい1冊です。 |
トレーニングの参考になるかと思い本書を読みましたが、監修の朝原さんのコメントにあるように、私自身プロボクサーとして感覚的に蓄積していたノウハウが驚く程、的確に言語化されていて再認識することができました。何よりもトレーニングのためだったランニングが楽しく感じられ、生活に欠かせない生き甲斐になりました。この本に出会えた事をとても感謝しています。
プロボクサー・日本ウェルター級チャンピオン 中川 大資
2年前からマラソンを始めた市民ランナーです。「考えながら走るランナー」・「考えながら色々なことに挑戦する人」にとってアレクサンダー・テクニークは自然と身についているものではないかと思いました。
これを言語化した本書は『再認識』するという意味で、たいへん意味のある本だと思います。
東京都・阿部様(55歳・女性)
私も日本陸連指導員として、20年余マンツーマンで競技者から一般の人(初心者)に歩き〜走りを伝えている。私は学生(高校3年)の時に、右膝の故障で走れない時期が続いた。
色々な病院などに行くも、医師の言うことはバラバラ…。最後に行った湾岸病院の整形外科部長の故・高澤先生から「君の歩き方を直してみなさい」の一言が今の自分をつくっている。日体大で身体の構造に関する文献を読破し、日常の姿勢の癖が歩き〜走りにつながる事をつかんだ。この本と通ずるポイント(指導)が多く、すごく嬉しい。今後も自信をもって指導してゆく。
神奈川県・大谷様(43歳・男性)
市民ランナーとしてはそれなりのレベルであり、ランニングに対してかなり真剣に取り組んでおります。これまでに、いろいろなランニング本を読んだ中で、この本は、ベストの部類に入ると思います。テクニックよりも、ランニングの本質とは何か?ということに対し、かなり深く言及されており、非常に参考になります。中級以上のランナー(フルマラソンでタイム3時間30分以内)必読の本です。
兵庫県・会社員(49歳・男性)
本を読むのは苦手ですが、この本はむずかしい言葉が使われておらず、また、AT(アレクサンダー・テクニーク)の個人レッスンを受けていて言葉も慣れてはいるので、読みやすかった。
どこのページからも入りやすい。
特に、レース前の準備という章は参考になる。競争前に自分を見失っている時
や、明日はどう走ろうかと考えて「結果」に思いが行ってしまうとき、この本を
めくって少し読み出すと正気にもどる感じで、気分が落ちつき、楽になる。
レースの時、レースシューズの履き方を決めているが、この本の中にもシューズの履き方にこだわっているなどという文章があり、そういうところを読むと安心する。
この本を読むと、ふだん気がつかなかったことが書かれていて、自分の今の状態を気づかせてくれる。
競輪選手 T氏
本書の下訳を読み、朝のランニングを初めて半年。今までは何か別の目的<お腹をへこます>(笑)<登山でバテないため>のために走っていましたが、読後の最大の成果は、何よりも走っている瞬間・瞬間が楽しくて仕方なくなったことです。この変化は凄かったです!何人かの友人にも読んでもらいましたが「これは凄い!」という声が多いです。ランナーのバイブルになると確信しています。
弊社営業部員(40代前半・男性)