エスノグラフィー入門

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フィールドワークをこえて、現場と関わるすべての人へ。

エスノグラフィー入門 〈現場〉を質的研究する 小田博志

文化人類学・社会学はもちろん、教育学・心理学、医療・看護・福祉の臨床現場で、さらにはマーケティングの分野で 欠かせない質的調査手法となった「エスノグラフィー」。第一線の人類学者による実践ガイド『エスノグラフィー入門』を ご紹介しつつ、「エスノグラフィーって何?」という疑問に応える入門一歩手前のWEB特集です。

エスノグラフィーって何?

  • 現場からはじめよう
  • 異文化・他者理解の方法としてのエスノグラフィー
  • プロセスとしてのエスノグラフィー
  • 質的研究の源流としてのエスノグラフィー
  • 社会で活用されるエスノグラフィー

*上記は『エスノグラフィー入門』の「はじめに」を再構成したものです。WEB用に内容の一部を変更しています。

現場からはじめよう。

エスノグラフィーとは、人びとが実際に生きている現場を理解するための方法論です。
キーワードは
「現場」と「問い」。
『エスノグラフィー入門』では現場で出会う問いを解き明かすための方法論としてエスノグラフィーを捉えています。
この方法論を用いて生みだされるのが
「エスノグラフィーの知」、
人間が生きる現場に近い知です。従来の研究方法が生活と現場から離れてしまう傾向があることへの反省が高まる中で、
エスノグラフィーへの関心がさまざまな分野で集まっているのです。

エスノグラフィーは、文化人類学・社会学、心理学・教育学の学生や研究者のみならず、
福祉・看護・医療など人間と関わる分野の学生、研究者、ビジネスマン(マーケティング・企画系)、行政職員、ジャーナリスト、編集者、デザイナー、市民活動の担い手
といった、現場に関わるすべての人に役立つ可能性のある方法論として期待されています。

異文化・他者理解の方法としてのエスノグラフィー

エスノグラフィーは文化人類学の分野で中心的な調査研究方法として発展してきました。
また社会学でもエスノグラフィーの重要な伝統があります。さらに近年では、教育学、看護学、心理学、経営学、歴史学 などさまざまな分野で注目を浴び、応用されるようになってきています。


なぜこの異文化理解の方法が、今になって様々な分野から注目されるのでしょうか。


それは、現代社会の多様化がすすむ中で、たくさんの小さい「異文化」が身近なところに現われ、
そこでエスノグラフィーへの期待が高まっているからです。試しにインターネットの検索エンジンに 「エスノグラフィー」と入れてみると、実際にどのような活用がはじまっているかがわかるでしょう。

プロセスとしてのエスノグラフィー

今日の文化人類学では、エスノグラフィーを研究のプロダクト(産物)およびプロセス(過程)として、
大きく2つの意味で捉えています。

日本の文化人類学では、エスノグラフィーは「民族誌」と訳され前者(プロダクト)の意味で理解される傾向にありました。
すなわち「フィールドワークの報告書としての民族誌」という意味です。

一方の、プロセスとしてのエスノグラフィーは、フィールドワークも含んだ調査研究の進め方という意味です。
これは端的に方法論としてのエスノグラフィーと言い換えてもよいでしょう。この後者の意味が英語圏では強くなって おり、特に質的研究の分野ではエスノグラフィーといえば方法論を指します。
「エスノグラフィーする(doing ethnography)」という言い方は、まさにこの意味を表わしています。

質的研究の源流としてのエスノグラフィー

エスノグラフィーは質的研究の源流として位置づけられます。

質的研究とは

人間・心・社会などについて数字ではなく、
言葉や映像を用いて研究する立場の総称


です。従来の数量化=科学的という見方が疑問視され、わたしたちが生きている現実により近い研究を可能にする方法 が模索される中で、質的研究には大きな関心が寄せられています。

質的研究の中でもエスノグラフィーには、とりわけ自由度が高く、標準化の程度が低いという特徴があります。
特に既存の説明の枠組みが通用しない、未知の事象を理解するのに適しています。なぜならエスノグラフィーは、自分の 「常識」や「ルール」の通じない「異文化」や「他者」の世界を理解する方法として発達してきたからです。

社会で活用されるエスノグラフィー

エスノグラフィーは研究の世界だけにとどまらず、近年になって社会の多様な現場で頻繁に応用されています。 特に顕著なのがビジネスやマーケティングでの応用です。

アメリカのIT関係の有名企業ではエスノグラファーを数十人雇用している一方、日本でも多くの企業が消費者調査、 サービス改善などのためにエスノグラフィーを採用するといった動きがあるようです。現場に密着した知見を生み出す というエスノグラフィーの特質を考えれば、これは当然の動きといえるでしょう。  さらに防災の分野で「エスノグラフィー」が用いられている例があります。これは阪神・淡路大震災のような未曾有の 災害を経験した人びとに詳細な聞き取りを行なって、その現場の知を明らかにし、今後の災害の教訓として用いようと するものです。

これらはおそらくエスノグラフィーの社会的活用の手始めでしょう。市民が、企業が、行政が現場の問題を理解し、 それを解決するためにエスノグラフィーを用いる時代になっていくでしょう。エスノグラフィーにはそれだけの可能性 があるのです。

エスノグラフィーのプロセス

エスノグラフィーのプロセスマップ

エスノグラフィーにはいろいろな段階があり、全体的なプロセ スがあります。自分が今どの段階にいるのかを把握することは、 道に迷わずに目的地にたどり着くために重要です。 『エスノグラフィー入門』では、このプロセスを地図にした 「プロセス・マップ」を収録しています。 (各章の見出しと、この図の中の段階とが対応しています)

*使用上の注意!
この本に書かれていることは機械的に守るべき手順ではありません。現場の世界を描き出し、 また分析するというエスノグラフィーの大きい目的が達成されるなら、自由に創意工夫をしてよいものです。 本書はあくまでもエスノグラフィーの道を歩むときの道しるべだと考えてください。

 

エスノグラフィーの7つの特徴

エスノグラフィーの7つの特徴

『エスノグラフィー入門』では、みなさんがエスノグラフィーの 道を歩む助けとなる15の「指針」を掲載しています。 「エスノグラフィーの7つの特徴」は、そのひとつです。 それぞれのエスノグラフィーの現場で、迷ったり困ったりした ときに、この指針がきっと役に立つはずです。

 

著者について

小田博志(おだ・ひろし)

北海道大学大学院文学研究科准教授。大阪大学大学院人間科学研究科修士課程修了の後、ハイデルベルク大学で博士号を取得。 専攻、文化人類学、エスノグラフィー論。平和や和解をテーマにエスノグラフィーしている。 著書に『エスノグラフィー入門 〈現場〉を質的研究する』『質的研究の方法 いのちの〈現場〉を読みとく』(波平恵美子との共著、 春秋社)『ナラティヴ・アプローチ』(共著、野口裕二編、勁草書房)『人類学で世界をみる』(共著、春日直樹編、ミネルヴァ書房)など、 訳書に『質的研究入門』(共訳、春秋社)などがある。

著者による本書のための特設ページ随時更新中!
「エスノグラフィー入門・プラス」

(文責 編集部)

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