中村草田男

私の愛誦句鑑賞

著者 鍵和田 秞子
ジャンル 評論・エッセイ > 評論 > 日本
出版年月日 2017/05/23
ISBN 9784393436479
Cコード 0095
判型・ページ数 4-6・280ページ
定価 2,420円(本体2,200円+税)
在庫 在庫あり
師・草田男俳句への共感、かみしめて味わう十七音の豊饒な世界。その傑作の数々の魅力と卓越した作句法をきめこまかく、愛情を込めて語る。創作期をめぐる評論も収録。
 序に代えて     

   Ⅰ 愛誦句鑑賞

万緑の中や吾子の歯生え初むる        
蟾蜍長子家去る由もなし       
はまなすや今も沖には未来あり      
むかうから皆迎へ灯の蛍火や            
妻二タ夜あらず二タ夜の天の川        
秋の航一大紺円盤の中         
友もやゝ表札古りて秋に棲む         
冬の水一枝の影も欺かず         
燒跡に遺る三和土や手毬つく        
勇気こそ地の塩なれや梅真白         
種蒔ける者の足あと洽しや        
夕桜あの家この家に琴鳴りて         
夕桜城の石崖裾濃なる         
母の日や大きな星がやや下位に        
花柘榴情熱の身を絶えず洗ふ         
蜥蜴の尾鋼鉄光りや誕生日          
我鬼忌は又我誕生日菓子を食ふ          
月の座の一人は墨をすりにけり         
空は太初の青さ妻より林檎うく         
あたゝかき十一月もすみにけり          
焚火火の粉吾の青春永きかな         
旧景が闇を脱ぎゆく大旦         
日向ぼこ父の血母の血ここに睦め        
雛の軸睫毛向けあひ妻子睡る        
そら豆の花の黒き目数知れず        
とらへたる蝶の足がきのにほひかな       
あかるさや蝸牛かたくかたくねむる        
七夕や男の髪も漆黒に       
咲き切つて薔薇の容を超えけるも       
葡萄食ふ一語一語の如くにて       
富士秋天墓は小さく死は易し      
木葉髪文芸永く欺きぬ      
深雪道来し方行方相似たり      
餅焼く火さまざまの恩にそだちたり       
寒星や神の算盤ただひそか      
春草は足の短き犬に萌ゆ     
妻抱かな春昼の砂利踏みて帰る      
手の薔薇に蜂来れば我王の如し     
六月の氷菓一盞の別れかな     
燭の灯を煙草火としつチエホフ忌     
炎熱や勝利の如き地の明るさ     
ふりかへる秋風さやぎ已にとほし    
蟷螂は馬車に逃げられし馭者のさま     
芭蕉忌や己が命をほめ言葉    
雪虫や高さの重さに堪へ得ずに    
何が走り何が飛ぶとも初日豊か    
壮行や深雪に犬のみ腰をおとし   
白鳥といふ一巨花を水に置く    
乙鳥はまぶしき鳥となりにけり    
猫の仔の鳴く闇しかと踏み通る    
香水の香ぞ鉄壁をなせりける     
厚餡割ればシクと音して雲の峰     
浮浪児昼寝す「なんでもいいやい知らねえやい」  
向日葵四五花卓へ投ぐ猟の獲物のごと   
淑やかや磨きしごとき新小豆    
貌見えてきて行違ふ秋の暮   
冬浜を一川の紺裁ち裂ける  
降る雪や明治は遠くなりにけり  
横顔を炬燵にのせて日本の母
寒卵歴史に疲れざらんとす
山桜あさくせはしく女の鍬
一汁一菜一能に足るよ鯉幟
毒消し飲むやわが詩多産の夏来る
みちのくの蚯蚓短かし山坂勝ち
終生まぶしきもの女人ぞと泉奏づ
曼珠沙華落暉も蘂をひろげけり
頭をふりて身をなめ粧ふ月の猫
秋雨や線路の多き駅につく
花柊「無き世」を「無き我」歩く音
兎親子福寿草亦親子めく
蒲公英のかたさや海の日も一輪
はゝそはの母と歩むや遍路来る
桜の実紅経てむらさき吾子生る
鰯雲個々一切事地上にあり
白墨の手を洗ひをる野分かな
母が家ちかく便意もうれし花茶垣
空西透きそこを煙ののぼるかな
白馬の眼繞る癇脈雪の富士
雪ぐせや個の貧の詩はみすぼらし
またゝけどまたゝけど虹睫毛の雨
玉菜の芯から微かな鶏鳴広漠たり
西日の馬をしやくるな馬の首千切れる
藁にかへる馬糞や盆も過ぎし道
返り花三年教へし書にはさむ
祖母恋し正月の海帆掛船
おん顔の三十路人なる寝釈迦かな
片陰や夜が主題なる曲勁し
真直ぐ往けと白痴が指しぬ秋の道
蝙蝠飛んで白夜は昼夜の外の刻
「造型」のさゝくれや虹へ飛行雲
読初や大草原と海を恋ひ  
声のみかは満樹満枝の百千鳥   
受験疲れを春の驟雨の霑しぬ   
若き等孜々と勤むる往来花の園   
萩まろやか満株黄葉伎芸天   
鵲の来て今日の雪降り亙る   




   Ⅱ 草田男俳句の世界

『長子』および、それ以前の時代     
『美田』以後の作品について     
中村草田男の近業      
草田男と父    
LPレコード「中村草田男集」を聞いて    
先生の言葉     


 あとがき
 索引

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